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  • 第三章 スフェイバの遺跡と遠き世界の夢
  • 3-9 遊戯神ピリエミニエへの疑惑

3-9 遊戯神ピリエミニエへの疑惑

 広い部屋の奥には、確かにこの遺跡のコアになるのであろう、星暦時代の思考機械が設置されていた。

 広い壁面一帯にモニターらしきものが取り付けられ、その手前の操作パネル……であろうというものが存在する。モニターには、遺跡の透視図が映し出され、各所の状態らしい光点が輝いていた。


 ここが、間違いなくスフェイバ遺跡のコアルーム。

 しかし、それよりも一行の頭を占めていたのは。



「……どういうことだ……あれは、何だったんだ……」

 呆然と、ゼーベルが床に座り込んでいる。正確に言うと、蛇の下半身をとぐろを巻くように折り曲げているのだが。

 他の面々も、彼の周囲に思い思いの姿勢で集まっていた。

「何で、柳橋やなはしがこの世界に……」

 柳橋というのが、さきほどの古魔獣に変えられていた、ゼーベルの先輩とかいう男の名前であろう。


「どういうことだ……? つまり、我らの他にも、あの世界からこの世界に連れて来られた者がいるという訳か……?」

 納得いかなげに、オディラギアスが呟いた。槍を片手に、周囲を警戒する様子だ。

「しかも、魔物にされている……?」


「まさかと思うけど……」

 今しがた、ちぎれた翅をイティキラの治癒魔法で癒してもらったマイリーヤが引きつった声を洩らす。

「この世界の魔物ってさ……全部、あっちの世界の人間が姿を変えられたもの……なんてこと……ないよね……?」

 その言葉に、思わず六人は顔を見合せた。不穏な気配。


「……いや、違うと思いやすよ」

 ジーニックが低い声で呟く。

「もしそうなら、何であっしら六人だけ、こうして『神聖六種族』の姿でこの世界に生まれたのか、説明がつかないでやんすよ」


「……考えられる説明を申しあげるなら」

 レルシェントが、秀麗な眉をひそめながら言葉を選ぶ。

「……この遺跡の防衛機構が、ゼーベルさんが内心で抱いていた恐怖心に形を与え、ああいう形で具現化した、ということですけど……。普段、意識に登らせなくても、心の中で渦巻いている強い感情は、魔力に乗って外に漏れるものですわ」


 しかし。

 ゼーベルはレルシェントを見上げ、頑なに首を振った。


「違う。ありゃ、確かにあの人殺しの柳橋だ」

「……そう断言できることがございます?」

「ある」

 ゼーベルは唾を呑み込んだ。

「あいつ、俺を『和田わだ』って呼んだだろう。俺の本名、確かに和田ってんだ。和田亮二わだりょうじ

 虚空の一点を見据えて、ゼーベルは言葉を紡ぐ。

「別に自分の名前は好きでも嫌いでもなかったから……特に意識してなかった。そんなのまで、魔法で読み取れるのか? いくら霊宝族でも無理だろ?」

 そう言われてしまうと、レルシェントと言えど、確かにその通りと認める他ない。

「……それに、あいつの口調……」

「口調?」

 レルシェントが首を傾げた。

「……記憶にある、あの口調なんだよ。ああいう……抑揚、ってのか? あんな感じで話す奴なんだ。間違える訳ねえよ、特徴的だったろ」


 レルシェントを始め、皆が考え込んだ。

 あのねっとりした絡みつくような口調は、魔物だったからではなく、元々の口調だったらしい。確かに、漠然とした感情を読み取るような魔法でも、そこまでの細部を詳細に察知し再現するのは難しいだろう。


「迷ってるみたいだね」

 不意に、背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこには薄青い肌、額に宝玉のある子供。


「ケケレリゼ……?」

 レルシェントがはたと彼を睨む。

「……先ほどの古魔獣について訊きたいことがあります。包み隠さず答えなさい」


 ケケレリゼは、ニンマリ笑ってうなずいた。

「うん。そうだと思って出て来たんだ。……さっきの古魔獣の魂。どこから調達するか知ってる?」

 レルシェントの困惑が深くなった。

「……調達? ある神の配下にある生き物の魂は、その神から……この遺跡のなかにいる古魔獣なら、星宝神オルストゥーラから下し置かれる。違うのですか?」

 むふふ、とケケレリゼが笑う。


「正確に言うと、ちょっと違う。オイラみたいな者向けの、魔物用の魂の割り当てってのがある訳さ。そして、それはオルストゥーラ神じゃなくて、ピリエミニエ神から直接送られてくる」


 レルシェントは息を呑んだ。

「ピリエミニエ神!?」

「そう。あのピリエミニエ神。この世界『神々の遊戯場』を主宰している、遊戯神ピリエミニエ神、だよ」

 得々と、ケケレリゼは解説しだした。

「あの方が、魔物に相応しい、欠けた魂や歪んだ魂なんかを送ってくる訳。さっきあなた方が戦ったのは、その割り当ての中でも特に歪んだやつさ。どう? 驚いてくれた?」

 けろけろ笑われるのも気にならず、レルシェントは仲間たちを見回した。

 みな、一様に驚きと困惑を露わにしている。

「……ピリエミニエ神は、その魂をどこから……」

 思わずといった様子で、オディラギアスが口を開いた。

「しっらなーい。オイラみたいな普通のAIなんかに、この世界の最高神であるピリエミニエ様の采配の詳細なんか、分かる訳ないでしょ? そもそも、魂が元々どこのやつだったかなんて、オイラの知ったこっちゃないよ」


「ねえ」

 マイリーヤが、声をひそめて、レルシェントの腕をくいくい引いた。

「あのさ、『全知の石板』に、ピリエミニエ神は、魔物の魂をどこから持ってくるのか……って質問も、できる訳だよね?」

 白い頬を、もっと青ざめさせて、レルシェントは頷いた。

 全員に目配せする。


「スフェイバ遺跡AIケケレリゼ。あなたに質問があります。『全知の石板』について」

 きっぱり口にするレルシェントを見返して、子供の姿のAIアバターは更にニンマリした。

「そうそう。あなた方の目的はそれなんだよね」

 くすくす楽しそうにケケレリゼが笑うと、奥のモニターがひゅんと光り、一瞬で映し出しているものを変えた。


 ……地図と、別の遺跡の透視図のようなもの。


「『全知の石板』はここにはない。オイラがあなた方に教えてあげられるのは、この『ラグゼイの遺跡』に行けってことさ」

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