3-3 ケケレリゼ

「ねー、人んちの前で何やってんのさぁ! 入るなら、早く入りなよ、非常識だなあ!!」

 急に子供特有の甲高い声、つんけんした口調の言葉を浴びせられて、六人はぎょっとして振り返った。


 いつの間にか、今の今まで誰もいなかったはずの遺跡の入口に、小さな人影があった。

 額に、小さいが薄青の宝珠が輝いていて、ちょっと見には霊宝族のように見える――ただし、肌まで薄い人工的な印象の青色で、その存在が霊宝族に外見だけ似せた、魔法生物だと判断がついた。

 縁飾りの付いた貫頭衣のようなものを纏い、そのせいぜい五歳児くらいの背格好の魔法生物は、傲岸な様子で一同を睨め回した。


「……これは、古魔獣か? こういうのは見たことがないな……」

 ごく自然な仕草で槍を構えながら、オディラギアスは声だけでレルシェントに問うた。

「いえ。厳密に申せば違いますわ。これはこのスフェイバ遺跡のAIの、アバターですわね」

 レルシェントが、すいっと前に進み出た。

「ええっと、この遺跡にAI搭載だと、つまり、どうなるんだ?」

 今一つピンと来ていない様子で、ゼーベルが尋ねた。


「本当なら、この遺跡をいじる時に、いちいち何かを入力しなくていいってことだよ。命令は、全部オイラが引き受けて遺跡を操作するから、遺跡に入る権限のある人は、オイラに命令すればいいだけってことさ。本当なら、ね?」


 いかにも意地悪そうにニンマリ笑ったそのアバター魔法生物に、六人は悪い予感がこみ上げるのを感じた。


「えー、つまり、ボクちゃんにお願いすれば、わざわざどっかに命令を入力しに行かなくてもいい訳でやすね……?」

 恐る恐るといった調子で、ジーニックが声に出したが。

「ダメー!!」

 そのちょっとした意地悪が楽しくてたまらない、というように、そのアバター魔法生物は、そう宣言した。

「三千年も待たされたんだし。悪いけど、あんたらには苦労してもらうよ。遺跡を隅々まで……」


「スフェイバ遺跡AI、ケケレリゼ!!」

 不意に、静かだが厳然とした声が飛んだ。

 進み出たレルシェントが、ひたと見据えて、そのアバター魔法生物の名前を呼ぶ。

 ちょっと聞いただけでは、威圧的には感じない。快い、いつまでも聞いていたくなるような声だ。

 しかし、その声音には、判断力を吹き飛ばし、問答無用でひれ伏させかねないような、圧倒的な魅力というべきものがあった。

「アジェクルジット家直系の名によって命じます。早急に遺跡のセキュリティ全レベルを解放なさい!!」


 一瞬、沈黙が降りた。


 まるで悪戯を見つかった子供のように、ケケレリゼと呼ばれたAIが気まずそうに笑う。

「……アジェクルジット家の人か。ああ、似ているよ。魔力パターンだけじゃなくて、見た目も似ている。最後にここに来たあなたの先祖にね」

 くくくっと、ケケレリゼが喉を鳴らした。

「でも、駄目なんだな。あなたの命令より優先順位度の高い命令っていうのがあってね。やっぱりこの遺跡を攻略してもらおうか。わざわざ、先祖の命に反して、異種族なんか連れて来ちゃったんだもんね?」

 上目遣いに、これは後ろ暗いだろう? とでも言いたげな表情を見せつけたケケレリゼだが、レルシェントの答えは。

「その命令の変更を命じます。私が許可した人物は、種族を問わずこの遺跡に受け入れなさい」


 取り付く島もないほど一方的に命じられ、ケケレリゼは何か考え込むような態度を見せた。


「うわぁ、レルシェー!! がんばれ!! 超がんばれ!!」

 この状態で何が「がんばれ」なのか、ともかく、マイリーヤは熱い応援をレルシェントに送った。

「ねー。思ったんだけど、霊宝族の人って、凝りすぎじゃない? 何なの、この人間のクソガキに悪知恵マシマシしたようなAIは? こういう風に作る必要、あるぅ?」

 口を尖らせたイティキラが、誰もがそれとなく感じていた疑問をぶつけると、レルシェント当人は苦笑し、他の四人はひっそりと同意のうなずきを見せた。


「……駄目だ。その命令も、僕の『コア』に接触して、直接書き換えるのでないと」

 言いにくそうな低い声で応じたケケレリゼに、レルシェントは小さく溜息をついた。

「……流石に、戦争モードに設定されてそのままのAIだけのことはあるわね……」

「戦争が終わったことは知ってる。でもね、オイラに下された命令は、そういうことだけじゃないんだよ」

 その言葉に、レルシェントは怪訝な顔でケケレリゼを見返した。

「……それは……」

「とにかく、最深部の『コア』まで来てよ。そこで全部話すから。じゃあね!!」


 ひゅるんと、微かな風を後に残して。

 スフェイバ遺跡AIのアバター、ケケレリゼは姿を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!