エピローグ

芳香は惑乱する:エピローグ


     *


 ――行かなければ。

 どうしても……。


 ――行かなければ。

 そこには……。


 ――行かなければ。

 大切なものが……。


 ――行かなければ。

 待っている……。


 行かなければならない。

 行かなければならないのだ。


 彼女の微笑みが……。

 もうすぐ見える……。


 すべてのものが……。

 二人だけのために。


 何も言わず。

 ただ、黙ったまま……。

 彼女の優しい芳香に包まれ、静かに眠っていたい。


 もう少しだ――。


 もう少しで……、彼女に会える。


 告白しなければ。

 彼女に……。


 ずっと前から好きだったことを……。


 今までの愛はまがい物だった。

 その時は気づかなかっただけ……。

 擬い物はいらない。


 愛だと錯覚していた擬い物の愛。

 だからこそ、擬い物とはをつけた。

 甘いバニラの香りに誘われるままに。


 渡さなければ。

 渡さなければならない。


 彼女の誕生日であるこの日に――。

 本当に愛した人にこそ相応ふさわしい贈り物。


  ――ティファニーのアトラス永遠の時間 ラウンドのペンダント。


 このペンダントに刻ざんだ二人のイニシャル。

 に込めた刻印――。


   〝 S to S 〟


 薄れゆく意識の中で、瀬戸は詩織の名前を……。


 叫んだ――。



           <了>

 【第六奇譚:「芳香は惑乱する/The aroma is troubled」】


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紫桐兄妹の探偵奇譚/Mysterious detective story of SHITO brother and sister 長束直哉 @nagatsuka708

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