芳香は惑乱する:#9 情報と聴取

 樋口祥子の絞殺事件の捜査のために、刑事が何度か店に訪れた。


 その中の一人に、森川瞳の知り合いだという刑事がいた。

 京都府警捜査一課の滝沢たきざわ正人まさとという刑事だ。

詩織は滝沢刑事と、ファッションビル『アーク』店内の喫茶室で向かい合っていた。


「お忙しいところ、お呼び出ししてすみません」

 滝沢は開口一番、そう言った。


「いいえ、それより何か進展はありましたか?」

 詩織はそれが知りたかった。


「いや、今のところは何とも……。実は、今日お邪魔したのは被害者の樋口祥子さんと、貴女が一番親しいお付き合いをされていたと聞いたものですから……」


「ええ、多分そうだと思いますが……」


「そこで、お聞きしたいのですが、彼女と親しかった男性、若しくはお付き合いしていたと思われる人物をご存じではないかと……」


「ええ、私もそう思って考えてみたのですが……。あっ!」

「何か思い出されましたか?」


「慥か……、忘年会の時に、私が祥子さんのしているペンダントを……、そうです。ティファニーの『アトラス ラウンド』というペンダントです。その時、確かに彼氏からの誕生日プレゼントだと言っていました」


「ティファニーのペンダントですか……? そんなもの現場には無かったですけどね……。確認してみます」


「間違いありません。あっ、それと、それには二人のイニシャルが刻印されているそうです」


「イニシャル入りですか……。彼女のイニシャルは樋口祥子ですから……、『S』ですかね」

「はい」

「それは重要な情報です。二人のイニシャルというのなら、それさえ見つかれば相手のイニシャルも……、助かります。では、彼女と最後に会話したのは、いつごろになりますか?」


「はい。事件の二日前です」

「つまり、火曜日ですか?」

「ええ、その夜電話で……」

 詩織は、そのときの出来事を滝沢刑事に話した。


「えっ? ということは、貴女はストーカ被害に遭っていた。それを被害者に相談した。その翌日の深夜、彼女は殺害されたということですか?」滝沢が驚いたように言う。


「何か事件と関係があるのでしょうか?」詩織は眼を見開いて尋ねる。


「いえ、関係があるか無いかは調べてみないことには何とも言えませんが、貴重な情報であることには間違いありません。取り敢えず、直ぐに、その手紙と無言電話の件は、調べてみます」

 そう言って滝沢刑事は、その夜、詩織のマンションを訪ね、証拠品を持ち帰った。


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