芳香は惑乱する:#2 合縁と奇縁

 瀬戸せと智志さとしが、最初に彼女と出会ったのは、彼が、女性用のカジュアル服を製造販売しているアパレルメーカに入社して一年後であった。


 研修も無事に終わったころ、関西地区の営業を任されることになった。

 そこで早速、営業部の上司、斎藤さいとう慎二しんじ課長に同行して、京都、大阪の各ショップに、新任の挨拶回りへと出かけた。

 それが、営業マンの第一歩だった。


 瀬戸は、各店の店長や、販売員と名刺交換をし、しどろもどろながらも新任の挨拶を交わした。

 販売員はすべて女性であった。


 瀬戸は今まで、女性と付き合ったという経験は皆無に等しかった。

 唯一、女性と付き合った――といえる思い出は、彼が中学生の時に、同じクラスの友人に誘われて、断り切れずに加わったグループ交際であった。

 グループ交際といっても、彼はいつも、友人の引き立て役に終始する存在でしかなかった。

 そんな交際も、半年として続かなかった。

 その後の彼は、高校、大学と受験に追われる日々を送った。大学を卒業するまで、女性と接する機会にもあまり恵まれなかった。

 そのためか女性と話すのが苦手になっていた。どう接すればいいのかが、わからないのだ。


 内定がここだけだったとはいえ、自分が選んだ職業が、これから多くの女性たちと交流しなければならない職種だと思うと、少し憂鬱で逃げ出したくもなる。

 その反面、心の何処かでは、そんな自分から抜け出すことができる機会を得たとも思っている。


 最後に訪れた京都の河原町通りにあるファッションビル内の直営店で、瀬戸は、ある女性に心を奪われた。

 彼女は他の女性たちとは一線を画する古風な女性のようだと、瀬戸の目には映った。

 彼女は、瀬戸が入社した翌年の新入社員で、販売部に属していた。

 彼女から手渡された名刺には、


 『葉月詩織』


 ――と書かれてあった。


 それが――

 彼女の名前だった。


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