第六奇譚:「芳香は惑乱する/The aroma is troubled」

プロローグ

芳香は惑乱する:プロローグ


    *


 ――ここを訪れたのは、これで何度目になるだろう?


 男の車は、薄暗い公園横の路地を徐行しながら走行していた。

 常夜灯が途切れたその場所には、その日の役目を終えた車たちが既に数台駐車されていた。

 男は空きスペースを見つけると、そこに悠然と車を辷り込ませ、それらの車と同化させた。


 男は車の中に身を潜め、車外へと視線を移した。

 その視線は、公園に隣接するマンションの壁を這い上がり、五階の角の一室に照準を定めた。


 その部屋には灯りが点り、部屋の主が在宅中であることを告げている。

 男は小さく北叟笑むと、固定された視線を外すことなく煙草に火を点けた。


 男の目当ては、その部屋に一人住まいをしている女性であった。


 男は、その部屋の窓を見据えたまま、大きく煙草の煙を吐き出した。


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