騒霊は屈折する:第5話 居酒屋


 滝沢の大学時代の友人で、大手不動産管理会社に勤める足立稔が、翔琉の妹のつばさと一緒にやってきた。そこで四人は向かい合って座り、追加注文をした。


「では、三〇五号室のほうから怪奇音が聞こえてくると、周辺の住人からの苦情が絶えないというのだね」翔琉が足立の話を聞いた直後、言葉を発した。


「ええ。しかし、その苦情先の三〇五号室の住人からは、何処からかは確認できないが、深夜に変な断続音がして迷惑しているという苦情が来たんです」

「えっ?」

 翼が、首を傾げて足立の顔を見る。


「つまりです。三〇五室と、その上下の階の住人がお互いに苦情を言っているという状態です」

 足立が、お手上げです、というポーズを見せる。


「じゃあ、その何れかの部屋から、その怪奇音は発せられているとみていいね」

 滝沢が、好物の〝たこわさ〟を頬張りながら言う。


「そうだとは思うんだが……」

 足立がそう言って、首を捻る。


「その中の誰かが、出鱈目を言っているってことね?」

 翼がそう言って、通りかかった女性店員を呼び止め、レモンサワーのお代わりを注文する。


 滝沢は、空になったジョッキを翳して、「こっちも」と言って、翔琉と足立に目配せをする。

 足立は残っていた生ビールを飲み干し、「同じく」と言い、ジョッキをテーブルの端に置く。

 翔琉は、「僕は、出し巻き」と一言いって、翼の考えに対して述べる。


「いや、本人が気付いてないだけかもね。誰しも、自分が集中していることに対してはあまり注意を払わないものだし、まさか自分が……、とは思ってないのかもしれないよ」


「しかし、そんな深夜に幾らなんでも不謹慎ですよね。マンションって個々が集まって形成された。言わば集合体なのですから、隣人に迷惑がかかるような行為は慎むべきです。最低限のマナーとして当然の義務ですよね」滝沢が持論を唱えた。


「そういえば、ここ最近、あのマンション周辺での痴漢の被害が増えていると、聞いているけど」と滝沢が、そのマンション周辺情報を盛り込む。


「痴漢?」

 翼が、顔を顰めて投げ捨てるように呟く。


「ええ、マンションの周辺は児童公園で、十時過ぎには人影も疎らですから……」

滝沢はそこまで言って、足立の視線に気付く。


 足立は、握りしめた拳を口にあて、咳払いをひとつした。


「あ……、怪奇音の話だったね。すまん」と滝沢が自分の顔の前で敬礼のポーズ。


「ともかく、その音の原因を突き止めないことには、埒が開かないというのが現状です」足立は不安げに述べる。


「もしかして、何か霊的な現象だったりして……」

 翼が、冗談めかして言う。


「あっ! そう、それ、きっとソイツですよ。えぇと、たしかラップ現象とかいうヤツですよ。つまり、断続的なラップ音」

 滝沢がヒップホップのラッパーポーズをして言う。


「ば~か」


 翼が冷たくあしらう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!