最終章 数学は遊戯する/The mathematics performs a game

数学は遊戯する:商/Quotient


      ◇


さすが翔流さんだ。当時、警察が苦労して解決した難事件をいとも簡単に解いてしまう」


「いえ、その栗花落美雪さんという方のほうがもっと凄いですよ。何しろその現場にいて、限られた情報の中だけで、犯人を断定するという芸当は、なかなか出来るものではありませんからね」


「そのとおりです」


「一度、お会いしたいものです」


「それは……」

 風間は言葉を濁し、翔流の目を凝乎と見つめた。


「ねえ、次は? もっと、私にもわかるレベルのクイズみたいなのがいいです」加代子が風間に訴える。


「わかりました。それでは、いいですか? 高校時代の恩師、真田さなだ氏の屋敷に、当時教え子だった三人が集いました。集まった教え子は、クラス委員長だった黒田くろだ。そして、副委員長だった星田ほしだ。数学が得意だった谷津田やつだ。彼ら三人は、各自個別の部屋でその屋敷に一泊しました。ところが、翌朝、真田が自分の部屋で、頭を鈍器で殴られ死んでいるのが発見されました。現場にはメモらしきものが落ちていて、そこには『9C2A7J6D3E2E2B7E』という数字とアルファベットの組み合わせ文字が書かれていました。さて、犯人は誰でしょう?」


「簡単ですよ。犯人は谷津田でしょう」加代子が即答で答えた。


「何故?」御厨が振り向いて聞く。


「だって、〝奴だ〟って、言ってるでしょう」


「それなら、黒田も、星田もそうなるわよ」翼が言う。


「あれっ……、本当ですね!」


「それに真田は、読みを変えると『死んだ』だし……、メモの意味が関係あるのよ」


「そうですね。何かのパスワードですかね」


「これは、サブスティチュート・サイファですね」翔琉が口を挟む。

「何ですか、それ?」武藤が聞く。


「〝換字式暗号〟のことですよ。つまり、ある文字を別の文字に従って置き換える方法で、一字一文字、一字二文字、一字三文字と対応するものなど、いろいろあります」


「つまり、変換ルールを発見すればいいのね」翼が言う。


「そのとおり、換字式は、公務員試験では多く出題されているのだが、警察官の試験に出ませんでしたか?」


「いやー、だいぶ前の事だから……」武藤が頭を掻いて言う。


「この場合、変換表を作成したほうがわかりやすいと思います。五十音の清音は十行ありますから、左から横に『あかさたな……』と書いて行き、ア行の上に十、カ行上には九、と数字を逆に書いて行くと、ワ行の上で丁度一になりますね。次に『あいうえお』の段ですね。これは縦にアルファベットの『ABCDE』の逆、つまり『EDCBA』を左横に書いておきます。後は濁音ですね。この場合も『FGHIJ』を、やはり逆にして、先ほどの横に書き込めば完成です。変換の対応表が完成したら、あとは簡単ですね。それぞれに当てはまる言葉を抜き出せば、それが答えです」


「それで正解です」御厨が言う。


「では最後に、一字一文字の簡単な換字式の問題を出します。問題、『INK』を『SAR』と表す場合、『WAY』は何と表すか?」風間が言う。


「『IがS』、『NがA』、『KがR』という対応関係になる。つまり、アルファベットが十五字ずれて対応しているのですね」翼が言う。


「ええ、この場合の答えは……」

「『END』だね」横から慎一郎が答える。


「正解ですよね」と、風間が寿子に同意を求める。


「ええ、そろそろ『お開き』ってことかしら……」

 そう言って、寿子が翼に目配せをした。




          <了>

 第三奇譚:「数学は遊戯する/The mathematics performs a game」


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