数学は遊戯する:除/Division


「ところで、ここで少しクイズ大会でもしませんか?」風間が問いかける。


「クイズは大好きです」翼が嬉しそうに言ったので、一同も賛同する。

「それじゃ、まず私から、小手調べに簡単なクイズを出題します」

 そう言って、風間は問題を出す。


「血液型がO型のXさんとAB型のYさんの子は、A型かB型。血液型がB型のZさんとO型のXさんの子供は、O型かB型。では、YさんとZさんの子は何型か? という問題です」


「簡単ですよ。YさんがAB型でZさんがB型だから、AB型とA型とB型でしょう」御厨が即答えた。


「いや、違うよ」風間が嬉しそうに言う。

「えっ、どうしてです」

「御厨さん、今の問題、よく聞かなきゃ……」翼が言う。「答えは、子供は出来ない。ですよね」


「正解です」


「えっ、何で?」


「だってこの問題は、XさんとYさんの組み合わせと、ZさんとXさんの組み合わせでの子の血液型検証でしょう。Xさんは同一人物だから、Xさんを男性だと考えるとYさんもZさんも女性。Xさんが女性だと考えても、YさんとZさんの組み合わせでは同性同士だから、どちらにしろ子供は出来ないわ」


 翼が説明を終えると、「あっ! 引っ掛けですか。参ったなあ」と御厨が悔しそうに言った。


「それでは、二問目です。五百円、百円、五十円、十円、五円、一円の硬貨を、それぞれ最低一枚は使い、十五枚で七百五十円にしてください」


「意外と簡単なクイズね」すぐに翼が言う。「それぞれ最低一枚使うということだから、それぞれ一枚ずつ使えば合計は六百六十六円になり、それで六枚使ったから残りは九枚。七百五十円からそれを引くと、残りは八十四円。八十四円を九枚の硬貨で作るには、五百円玉と百円玉は使えないから、まず、一の位の四円が作れるのは一円玉だけ、残った八十円を五枚の硬貨で作るとしたら、五十円玉を一枚、残り三十円は十円玉と五円玉で作る。十円玉だけだと三枚で作れるけど、一枚足らない、だとしたら五円玉を二枚使えば四枚になる。これで十五枚の硬貨を使って七百五十円になるわ」


「あ、ああ、なるほど。それにしても早い」吉川が言う。

武藤は、まだわからないという風に目玉を右上に向け口を半開きにしている。


「流石ですね。それで、正解です」


「それでは、次は僕が問題を出しますね」吉川がそう言って、問題を出す。

「三桁の数をすべて書くためには『0』は全部で何個必要か?」


「三桁の数字って100から999までの数のことですよね」武藤が聞く。


「そう、全部で九百個あるわ」翼が言う。


「まず……、100には二個、101には一個……、おお、そうだ。101から109までで九個か」

 そう言いながら、武藤は両手の指を折って唸っている。


「おいおい、999までそうやって、指を折って数えるつもりかい?」

 翔琉が横から呆れた様子で言う。


「ええっ? どうするのですか?」武藤が、顔を翔琉に向けて問う。


「ああ、つまり全個数九百個の中で、一の位が全個数の十分の一だから、九十個ある。十の位にも同じく十分の一で、九十個。百の位には0は無いので、合計は百八十個だよ」


「正解です。ちょっと簡単すぎましたかね?」吉川が言う。


 加代子が、新しいビールを運んで来て席に着く。


「私からも問題出しますけれど、いいかしら?」寿子が言う。

「おいおい、君が――かい?」総一郎が笑顔で言う。

「ええ、いけませんか?」

「いいですよ」

 一同が頷く。


「ここに7リットルと、9リットルと、12リットルの容器があります。そのうち12リットルの容器にだけ油が入っています。そこで、油を三つの容器で分配して、1リットルだけをどれかの容器に入れてください。何回の手順でできるでしょうか?」


「これは、『油分け算』の一種ですね」翔琉がビールを口にして言った。


「油分け算ですか?」


「ええ、プログラミングの世界では『水差し問題』という名前で呼ばれています。この『油分け算』は、江戸時代の数学書『塵劫記じんこうき』に載っています。この『塵劫記』は、数の桁の名称や単位、掛け算九九などの基礎的な知識のほか、面積の求め方などの算術を日常生活に身近な話題をもとに解説しており、一冊で当時の生活に必要な算術全般を、ほぼ網羅できるような内容となっています」


「へえー、数学の教科書ですね」加代子が、感心して言う。


「『塵劫記』には、そろばんの使用法や測量法といった実用数学に加え、『継子立て』や『ねずみ算』といった数学遊戯が紹介されていて、初等数学の標準的教科書として江戸時代を通じて用いられたといわれています」


「それで、この問題の答えは?」翔琉にビールを注ぎながら、唐突に加代子が言った。


「カヨちゃん。自分で考えなさい」間髪を容れずに寿子が言う。

 加代子は、首を竦めるのと舌を出すのを同時にした。


「簡単、簡単」翼が加代子に言う。


「簡単ですか?」加代子が黒目を斜め上に持って行く。


「じゃあ、翼ちゃん。答えは?」寿子が問う。


「はい、答えは五回です。いいですか? まず、12リットルの容器から9リットルの容器に注ぎ、9リットルの容器から7リットルの容器に注ぎます。これで、12リットルの容器には3リットル、9リットルの容器には2リットル、7リットルの容器には7リットルとなります。三回目に7リットルの容器の中身をすべて12リットルの容器に注ぎます。そして9リットルの容器の中身を7リットルの容器にすべて注ぎます。最後に12リットルの容器の10リットルを9リットルの容器に注ぐと、12リットルの容器に残った量が1リットルとなる。このとおり、五回でできます」


「なるほど」総一郎が感心する。「ほかに、面白い問題は無いのかい?」


「では、もう少し難しい問題にしますよ」

 風間がそう言って、次の問題を出した。


 「ここに、A、B、C、Dの巾着が四つあります。それぞれの巾着の中にはコインが入っています。コインの数は、AとBを合わせるとCの2倍になり、BとDを合わせるとAの2倍。さらにDから1枚コインを取り出しAに入れると、AはBの2倍になります。そして、この四つの巾着の中にはコインが4枚入っている巾着が一つだけあります。では、それはどの巾着でしょうか? ただし数式をたてずに解いてください」


「えっ、また数学の問題ですか? 計算問題は苦手だなぁ」武藤が、顔を顰める。


「ちょっと待って……、二数の積の場合、奇数×偶数、偶数×偶数、どちらも偶数になるわよね……。それと、奇数+奇数は偶数だから、Aにコインを一枚加えると偶数になるにはAは奇数。また、奇数のAと、Bを合わせると偶数なので、Bも奇数。同じく奇数のBと、Dを合わせても偶数なので、Dも奇数。これで、A、B、Dが奇数だと証明できるから、残りのCが偶数で、この巾着にコインが四枚入っていることになるわ。そのほかのコインの数は、Aには五枚、Bには三枚ずつ、Dには七枚入っていることになるわね」


「駄目だ。翼さんには勝てませんね。それでは翔琉さん。ここで指向を変えて、犯人当てゲームでもしませんか?」御厨が、翔琉のグラスにビールを注ぎながら言った。


「フーダニットゲームというわけですね。面白い」翔琉が言う。

 翔琉の言葉で、一同が御厨の提案に賛同する。


「ええ、二十年ほど前に、鞍馬口の屋敷で実際に起こった首切り殺人事件なのですが、だいぶ昔の事件なので、多分、皆さんの記憶には残っていないと思います。そのことを願って話を進めます」

 そう言って、風間はそのときの話を始めた。


 その内容は次のようなものであった。


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