数学は遊戯する:減/Subtraction


 東儀家のキッチンで、翼は憤慨した表情を表して寿子に詰め寄る。


「見合いなら見合いって、どうして言ってくれないの」


「見合いじゃないわよ。今日は、うちの人の誕生日」

 寿子は平然とした顔で言う。


「伯父さまの誕生日は来月でしょう」

 翼は、間髪も容れずに突っ込む。


「だから……、そうそう、今日は誕生日の予行演習の会なのよ」


 ――何だ、その見え透いた嘘は?


 寿子のその返答を横で聞いていた加代子が、口に手をあてて笑いを堪える。


「お見合いじゃないのに何よ、あの改まった自己紹介は? 冗談じゃないっつうの」翼は、やっていられない……、というように吐く。


「警察の人って、みんな、あんな風じゃないの?」


 ――それはないでしょう。

 翼は、呆れて寿子の顔を睨んだ。


「それより、どう、翔琉君は大喜びよ。みんなと会話も弾んで楽しそうに飲んでいるわ」

「あの人は、お酒さえ飲めれば何でも有りなんです」

 翼が、膨れたまま、素気無く言った。


「今日は、滝沢さんは来てないのね」


「彼は、忙しいから……、あれれぇ? 翼ちゃん。もしかして……、ひょっとして」


 ――何だ、その、ややこしい表現は?


「伯母さま。『もしか』も、『カモシカ』も無いし、『ひょっと』も、『ヒョットコ』も無いわ。何を勘繰っているの?」


「何も……、隠さなくてもいいわよ」

「な、何を隠してると言うのよ、伯母さま」


「いいの、いいの。わかってるわよ。そういうことなら、私に任せておいて……」

 そう言って寿子は、ビール瓶を四本ばかりお盆に載せて、リビングへと向かう。


 ――そういうことって、どういうこと?


 仕方なく、翼もリビングに戻った。


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