素数は無限にある:滋賀2-2


     2


 滋賀県警から鑑識と警察関係者が駆けつけたのは、通報があって約一時間後のことだった。


 警察関係者が動きまわる中、一同はリビングに集められた。

「これがリビングですか……? 披露宴会場並みの広さですね。ああ、これは失礼、私は、滋賀県警の朝倉あさくらと申します」がっちりとした体躯の中年男が、正明に警察手帳を提示して言った。


 披露宴会場とは、まさに的を射た比喩だ――と翼は思った。


「今日はみなさん、何か特別なお集まりでしょうか?」

 その問いに綾音が、今日の集まりの趣旨と、被害者との関係を告げる。


「ほう、豪勢な誕生パーティですね。羨ましい限りです。それで、貴女と、こちらの紫桐さんが、第一発見者なのですね」朝倉が微笑んで言う。


「ええ」翼が答える。

「それでは、遺体を発見した時の状況を、お話願いますかね」

 翼は、発見時の遺体や現場の様子を、分かり易く簡潔に述べた。


「さすがは、翔琉さんの妹さんだけはありますね」朝倉が感心したように言う。

「えっ? 兄のことをご存知なのですか?」翼は、意外な言葉に問い質す。

「ええ、昔、いろいろとお世話になったことがありまして……、で、お兄さんは?」

「相変わらずです」と翼が答えると、「それは、何よりです」と朝倉が嬉しそうに言った。


「これは、自殺ですか? そ、そんなことは有り得ない」悲愴な面持ちで正明が横から問い詰める。

「ええ、他に睡眠薬の誤用という可能性もあります。それを今、捜査しているのです」

 朝倉が顔を引き締めて見解を述べる。


「警部補。ドアの鍵は遺体の手の中にあったものと、この鍵の二本だけだそうです」

 若い刑事が、朝倉に告げる。朝倉がそれに応えるかのように頷く。


「ああ、貴方は警部ではなく、警部補ですか……」

 横から声がし、朝倉は振り向いた。


「貴方は?」

「広中と言います」


 朝倉は、『肩書き』に拘る人が好きではなかった。

 そんなことで、人を判断することが嫌だった。

 肩書は、一種の言霊だ。肩書に囚われて本質を見失うこともある。

 本当の実力は肩書きではないと思っている。

 わかる人には、肩書きなど通用しないと思っている。


 それが、紫桐翔琉だと――朝倉は思う。


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