素数は無限にある:京都1-2


     2


 数日後、滝沢のもとに鑑識から検査結果が届く。


 便箋と、封筒から検出された指紋は、美智のものだけであり、便箋、封筒ともに、何処のホームセンタでも手に入る大量生産された品物であった。文字から割り出したワープロとプリンタの機種も同じように、そこから得られたものから、送り主を絞り込むことは出来そうになかった。滝沢は、風間課長にそれを告げた。


「やはり、悪戯でしょうか? 悪戯にしては、何故、十年前の事件のことに触れるのかがわかりません」滝沢は、風間に疑問をぶつける。


「そこに、何らかの意図が隠されているのかもしれないが、我々としては、そこまでだな」風間は事務的にそう言う。警察は、事件が起こらないと動くことは出来ない。一旦けりのついた事件を、蒸し返すにはあまりにも材料が乏しい。


 滝沢は、「ええ」とだけ言って、自分の席に戻った。

「『みちのちに』かぁ……」滝沢の頭の中では、自分が得た情報の分析が開始された。

 ディスプレイに残された文字を、自殺を決心した当人が打ったとしたら、それは自殺する前に決まっている。覚悟の自殺なら、時間はたっぷりとあったはずだ。あんな尻切れのような文面はおかしい。


 ――いや、彼は推理作家だ。何か別の意味があるはずだ。


 ――他殺ならどうだ?

 他殺だと仮定して、犯人は、電源の入ったパソコンのディスプレイを見たはずだ。そこに、自分に不利になることが打ち込まれていたとしたなら、当然消去しておくだろう。


 ――待てよ。

 それなら、パソコンの操作が出来ない人物とも考えられる。いや、それなら、電源を切るとか何らかの手段も取れたはずだ。しかし、電源は切らずに、そのままの状態だ。


 ――やはり、何の意味もないものなのか?

 まさか、犯人が去った後で、事切れる寸前に被害者がダイイングメッセージとして打った……。いや、それは絶対有り得ない。被害者は、首を吊った状態で発見されている。


 ――そうだ。

 あれは、犯人が残したものだと仮定したら……。

 そう、それは警察の捜査を攪乱するためでしかない。

 しかし、攪乱するためなら、もっと違うことを打てばいい。たとえば、〈私はもう疲れた〉とでも打っておくほうが効果的だ。自殺に見せるための工作なら、そのほうがいい。


 ――やはり、あれは遺言なのか……?

 いや、あれは、事件とは何ら関係のないものなのかも知れない。

 そうだ。作品の書き出し部分なのかも知れない。

 そう考えた方が理にかなっている。


 ――そうなら、やはり自殺なのか……?

 滝沢の考えは、結局、当時の警察が出した見解に行きつく。



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