双数は対偶にある:対偶 -1


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 翼は別件の仕事を終え、帰社した兄の翔琉に今までの経緯を伝えた。


「というわけなの。ねえ、ここに依頼に来た小川優子という女性は、一体誰なの?」


「誰って、小川優子だろう」翔琉は、煙を吐きながら平然とそう言った。


「だろう……、と言ったって、小川裕子に姉はいないのよ。いない姉が、妹を探してほしいって……、どうして依頼に来るのよ?」


「だから、いたのさ」


「いたって、誰が?」


「優子だろう」


「何を言っているの? だから、姉はいないと……、ああ、もういいわよ。お兄さんは、この事件のことには興味がないわけ……?」翼は、拳を握って訴える。


「興味があるとか無いとかより、この事件は翼が担当したのだろう? 材料が揃っていない段階でいくら、ああだ、こうだと言ったところで、所詮はただの推測でしかあり得ない。時間を無駄に浪費するだけだ」翔琉は煙草を消した。


「それはそうだけど……。助言ぐらいしてくれてもいいでしょ」翼は翔琉を睨んで頬を膨らませた。


「誰もが正しいと思うことでも疑ってみることが大切だ。常識は非常識にもなる。鏡に映る自分の姿は、他人が見る自分の姿ではない」翔琉はそう言うと、書類の入ったキャビネットを開け、ファイリングした一冊の依頼書を取り出した。

 ページを捲り、それを翼に差し出すと、「この依頼主の住所を、訪ねてみてはどうだい」


 翔琉はそう言って翼の顔を見やり、莞爾にっこりと笑った。


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