双数は対偶にある:双数 -7


      7


 次の日翼は、JR山陰本線嵯峨野線の嵯峨嵐山駅近くの喫茶店で、裕子と一番親しいという二人と落ち合った。

 彼女たちは、裕子と同じS女子短期大学の同期生だ。


 ストレートのロング・ヘアにボーダTシャツの女性が白石しらいし寛子ひろこと名乗り、ショート・ヘアでモカ茶色のポロシャツ姿の女性のほうは宮部みやべ朱美あけみと名乗った。

 滝沢刑事から聞いていた女性たちだ。


 翼は、彼女たちが飲み物に口をつけるのを待って、話を切り出した。


「裕子さんと、最近は会ったことは?」


「最近は会っていません」白石がきっぱりと言う。


「宮部さんは?」


「ええーと……、たしか、二ヶ月くらい前やったかなぁ?」宮部が答える。

「親友なのに、そんなに会っていないの?」


「だって最近の裕子、何や少し変やったから……」宮部が言う。


「変……、って、どういう風に?」翼が問う。


「いつやったかなあ……。道で会うても、まったく無視して通り過ぎようするので、声かけてみたんやけど、それでも知らんふりしてたし……。そうかと思うと突然、明るく話しかけてくるし……。何やようわからん。以前は、そんなことなかったんやけどな……」


「それが、二ヶ月ほど前から……? 何か、思い当たることは無い?」翼は確認する。


「えーと? そう言えばヘアスタイルを変えたの、あの頃やったんと違うかな?」

 宮部が白石の肩を叩き、「あれ、いつ頃やった?」と小声で聞くと、白石は首を傾げた。


「え、何があったの?」翼が詰め寄る。


「ええ、その一ヶ月ほど前に、無言電話が多くて困っているって、裕子が言ってきて……」


「三ヶ月くらい前のことね。で、それは、どういうこと?」翼が、身を乗り出して尋ねる。


「ねえ、覚えてない?」宮部はそう言って、白石に同意を求める。


「ああ……、あのとき、裕子が、毎晩、無言電話があって怖いって。それってストーカじゃないって、みんなで話していて……」


「まあ、ストーカ?」翼が、眼を大きく見開いて言う。


「はい、相当、しつこい男だったみたいですよ。それで、私がコーちゃんに電話がかかってきたら裕子の彼のふりをして電話に出てほしいと頼んで、みんなで一緒にマンションに行ったことがあるのです。そして、雑談しながら電話がかかってくるのを待っていたのですが、どうしたのか電話はかかってこなかったんです。その日以来、無言電話がなくなったと裕子は言っていましたが……、いつの間にか、その騒ぎも沈静化しました」白石はそう言うと、反応を確かめるように大きな眸で翼の顔を見詰めた。


「コーちゃんって?」


「寛子の彼です。そうやったな。あれは、コーちゃんのお陰や」


「裕子が男性を連れてマンションに入るところを、何処かで見ていたんではないかと、後で、みんなと話していたんです」白石は、宮部を見て言った。


「あっ! もしかして、そいつやないですか?」宮部が横から言う。


「そいつって?」翼が尋ねる。


「裕子をさらったっていう犯人ですよ」息巻いて宮部が言う。


「ええ、その可能性はあるわね。で、ストーカの心当たりは無いの?」


「ええ、結局あれっきりで、結局、何処の誰かはわからずじまいです。そんなこともあってか、髪の毛も切ったのも気分転換のためなのかな……、って、二人で話していました」


 横で白石が頷いた。


「そうなの……。ところで、裕子さんのご両親のことは、彼女から何か聞いている?」翼の質問に、白石が答える。


「はい、彼女が五歳のときに、飛行機事故で、ご両親二人とも亡くならせたと聞いています。その後は、宇治の祖母の家で育てられたらしいのですが、それが……、一年ほど前に、その祖母も脳梗塞でお亡くなりになられ、その直後、今のマンションに引っ越したみたいです。そのころから次第に学校も休みがちになりました」


「それじゃ、彼女にお姉さんは?」


「えっ、お姉さん……? ねえ、朱美。何か聞いている?」白石が宮部に問う。


「いや、お姉さんがいるなんて話……、聞いたことあらへんな」宮部が首を傾げて言う。


「やっぱり……」


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