双数は対偶にある:双数 -4


      4


 翼は、優子を来客用のソファに招いた後、奥の部屋に行き、冷蔵庫で冷やしておいた麦茶をお盆に乗せて現れた。


 翼は、優子に麦茶を勧め、自分も向かいのソファに腰かけた。


 優子が麦茶を口にしたのを確認した後、名刺を差し出して言った。


「それでは、ご依頼内容を、詳しくお教え願いますか?」

 そう言って、翼はボイスレコーダのスイッチを入れた。


「あのう……、翼さんは、昨日、西京極で起きた殺人事件をご存知でしょうか?」

 優子は名刺に眼を通しながら、そう切り出した。


「ええ。今朝の新聞に載っていましたね。たしか、小川という女性の部屋で、中嶋という男性が殺害されていて、それに小川さんという女性の行方が……、あっ、小川?」


「は、はい、私、犯人に連れ去られた小川裕子の姉です」


「あっ、そうですか。それは、どうも……」


「実は、私があの事件の第一発見者でもあるのです」

 優子は、そう言って、そのときの状況を話し出した。


 その内容は、マンションに着いて、死体を発見、警察に通報……、と彼女の眼から見た事件の一連の流れと、状況であった。


「なるほど、わかりました。それで私どもに、どのようなご依頼を?」


「はい、妹を見つけてください」


「え、警察の捜査では、駄目なのですか?」


「ええ」


「どうしてですか?」


「警察では、妹を疑っているようなのです」


「妹さんを……、ですか?」


「はい。警察では、妹が犯行を犯し、部屋を密室にして、如何にも外部からの犯行のように見せかけて逃走したと、そのように取られてもおかしくはないような状況なのです。そうでなければ、不可能な犯行なのです。そう考えれば、自ずと犯人は妹だということに結論付けられてしまいます。この事件は、私の証言した内容がすべてです。私が妹を庇って嘘の証言をした――とも取られかねません」


「そう考えるのが、自然ですね」


「しかし、それが事実であることは私だけにしかわからない。それを証明する術が無いのです。でも……、私が話したことは、すべて事実なのです」


 話しているうちに興奮してきたのか、優子は次第に声を荒げ、仕舞には嗚咽を漏らし泣き出してしまった。


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