双数は対偶にある:プレフィス 2

 

      *


 最終電車が構内に辷り込み、コンプレッサが圧縮された空気を放出した。

 開いたドアからプラットホームの上に吐き出された人いきれは、一斉に階上の改札口を目指して階段を駆け上る。


 改札口を抜けると、駅ビルのテナントは既にシャッタを下ろし眠りについている。


 彼女は東口に通じるエスカレータで一階に下り、構外へ出た。

 駅前ロータリィのバス停には、数人が時刻表に見入っている。

 こんな時間でもバスは走っているのかと、彼女は怪訝に思いながらその横を通り過ぎた。


 タクシー乗り場には人待ち顔のタクシーが列をなし、通り過ぎる人を見遣る。

 彼女は、それを横目に横断歩道を渡った。

 正面のコンビニに、幾人かの人が吸い込まれていく。

 彼女は店内を一瞥したが、そのまま店の前を通り過ぎた。


 コンビニ横の路地に立ち並ぶ、自動販売機の群れが彼女を照らす。

 彼女は、その道を少し早足で進む。一握りの人が、彼女と同じ方向に足を運ぶ。

 赤提灯を灯した居酒屋の前を通り過ぎ、狭い路地を幾度か曲がったところで、街灯が等間隔に点在する少し広めの通りに出た。


 その辺りになると人足も途絶え、彼女一人となっていた。

 立ち並ぶ民家は、既に眠りについたかのように静まり返り、彼女は一層歩武を早めた。


 しばらく行ったところで、背後からライトの光とクラクションの音が彼女に訴える。

 彼女は路地の右側に寄り、車の進行を促す。

 車が彼女の真横に止まる。


 車から若い男性が顔を覗かせ、メモを見せて道を尋ねてきた。

 彼女は差し出されたメモを確認するために車に近寄り、そのメモを覗き込んだ。


 そのとき、突然後頭部を押さえられて、彼女の口が塞がれた。

 抵抗している間、甘い香りが彼女の鼻腔を包み込んだ。


 次第に意識が薄れていく中で――


 彼女は、


 自分が車に乗せられたことを自覚した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!