第32話「皆こうしてここにいる」
そして翌朝。
「じゃあ僕達は一旦帰るね。家を綺麗にして準備ができたら」
「お父さんとお母さんを迎えに行きます。その時はよろしくお願いします」
イザヨイとミユキはそう言って頭を下げてきた。
「うん。あ、いずれ君達が来るって伝えといた方がいいかな?」
「ええ。お父さん達に早く帰れるよういろいろ準備してもらわないと。急にいなくなる訳にはいかないし」
ミユキは別世界の事情もわかってるみたいだな。
「じゃあ彼等には守護神イオリから連絡して貰うわね、細かい事もイオリがなんとかしてくれるわよ」
アマテラス様が二人に言った。
「はい。じゃあ皆またね」
イザヨイとミユキは転移呪文で帰っていった。
「じゃああたしも帰るねー。しかしあたしほとんど役に立ってなかったわー」
イリアは冗談交じりにそう言った。
「そんな事ないよ。充分役に立ってたし、僕はイリアに会えてよかったと思ってるよ」
「えー、何でー?」
イリアは首を傾げていた。
「それはね、イリアの事は『できれば学生時代にこんな子と出会って友達になりたかったな~』って思いながら小説に書いてたんだ。だから今頃だけど実際に会えて、友達になれてホント嬉しいんだよ」
僕がそう言うと
「そ、そんなふうに言ってくれるなんて、うう、くそー! 隆生さんがフリーだったらよかったのにー!」
「は?」
イリアは顔を赤くして何か訳わからん事を叫んでいた。
「……って言っても仕方ないか。あ、そうだ。セリスはどうするのー? あたしと一緒に帰るー?」
イリアがセリスに尋ねた。
「うん帰るよ。もう隆生お兄ちゃんは大丈夫だし」
え?
「あの、もしかしてセリス君は僕を心配して着いてきてくれてたの?」
「そうだよ。ボクには無理だけどいつか誰かが治してくれるんじゃないかな、って。それまでボクがお兄ちゃんを守ろうと思って」
セリスは可愛らしい笑顔でそう言った。
「……ありがと」
思わず目が潤んでしまった。本当に君は優者だよ。
「じゃあ、またねー」
「お兄ちゃん達、また会おうねー」
セリスとイリアは時空転移呪文で元の世界へと帰っていった。
「さてと。あ、そうだ。ルー君は帰らないの?」
僕はルーに尋ねた。
「あの、僕は元の世界と中心世界の間しかワープできないんです」
あ、そうだった。ってそれでも充分凄いが。
「それなら俺が元の世界へ送ってやるよ。サンタクロース様や守護神様にも挨拶したいしな」
タケルさんがそう言ってくれた。
「あ、はい! お願いします!」
「はは。じゃあキリカ、行ってくるわ」
「気をつけ……って私もタケルと行くわよ! これ以上単身赴任させてなるものか!」
キリカさんは思いっきり怒鳴った。
「アホか! てめえはここの守護神だろうが!」
「守護神の座はユイに譲るわ! それなら一緒に行けるでしょ!」
おい、そんな簡単に譲っていいものなのか?
「ううん、わたしは女神になりたてでまだまだ力不足。だからこの世界はキリカが守って。わたしはタケルに手取り足取り腰取りで指導してもらうから」
ユイさんがヨダレ垂らしながら何かほざいた。
「……ユイ、あなたも来なさい。置いてって悪巧みされるくらいなら一緒にいた方がいいわ」
「いいの? 取っちゃうよ?」
「いいわよ。取られやしないし。あ、もういっそ三人でってのもいいかも……ジュル」
ゴン! ゴン! ゴン!
僕は三人を剣の鞘で思いっきりどついてやった。
「痛い……あんたってほんと遠慮しないわね」
「ミカ達もこうやって隆生さんの奴隷に……シクシク」
「てか俺まで殴るな!」
なんか戯けた台詞もあったが
「いいから早く行け!」
「もうやだ、早く帰りたいよう」
ルーは泣き崩れていた。
「ぐす、皆さんお元気で。それじゃ」
ルーはタケルさん達に連れられて帰っていった。
泣いていたのは別れが辛いからではないだろう……ごめんなさい。
「さてと、そろそろ俺達も帰るか」
「うん。あ、ミルちゃんはどうするの?」
「あたし一度おじいちゃんの所へ戻ってね、その後はおばあちゃんと一緒に暮らすの」
ミルちゃんはそう答えた。
「そうか。じゃあ俺達も父さんに会ってから戻るか」
「うん。そして眷属様に出発の時間に戻してもらお」
するとアマテラス様が申し訳なさそうな顔で
「ああ、それね……あのね、戻せないの」
「は? それどういう事ですか?」
「いえね、ただ旅してるだけだったらよかったんだけど、旅先で関わった人が多すぎて、あなた達を戻すと時空に乱れが生じるかもしれない、ってじいが言ってたのよ」
「え、じゃあ会社無断欠勤に」
「安心して。さすがじいね、こんな事もあろうかと隆生や優美子さんのコピーを創りだして同じように生活させてたみたいなの」
「そんな事までできるんですか、眷属様は……てかそれなら最初からそうすればよかったのに」
「これはあくまで特別の配慮だからね。あ、コピーはあなた達が戻ったら消えるわ。そしてコピーが体験した記憶はその場であなた達に宿るわよ」
「まあ、それならいいか」
「ああ。さ、行くか皆」
「うん」
僕達はその後あの世界の実家に行って、じいちゃんやサオリさんに旅の報告をした。
じいちゃんはミルちゃんがおばあさんと出会えた事、そして僕がもう大丈夫だという事を知って涙した。
「よかったなミル。私の事は気にしなくていいから、おばあさんと仲良くな」
じいちゃんはミルちゃんの手を取って言った。
「うん。あのね、おばあちゃんがおじいちゃんに会いたいって言ってるから、今度連れて来るね」
「ああ。来る時は連絡してくれ。美味しいものたくさん用意して待ってるからな」
「父さん、こっちも母さんや兄さん、姉さんも連れて来るからな」
姉ちゃんがじいちゃんに言った。
「ああ、これで隆一と隆生、親子三代で酒を飲むという夢が叶うな」
「あ、そうだね。そんな日が来るなんて思ってなかったよ」
「私もな。……本当によかった……カルマさんにはいくら感謝しても足りんな」
じいちゃんは涙を流し、手を合わせてカルマに祈っていた。
「うん。本当にありがとう、カルマ」
「それとこうしてきちんと話すのは初めてですな、ヒトシさん」
じいちゃんがヒトシの方を見て言った。
「うん。おじいちゃんは昔一度僕を起こしたよね」
え、そうだったの?
「ああ、隆生の奥底に別の人格がいるのは感じ取れていたのでな、起こして何者なのか尋ねたが、寝ぼけ口調で何を言ってるかわからんかったし心も読めんかった。まあ悪い者ではないのはわかったので、また眠ってもらったんだ」
「じいちゃん、その時にヒトシを無理矢理起こしてくれたらよかったのに」
「だがそれだと皆さんと出会ってなかったかもしれんぞ? そして私とも再会できなかったかもしれん」
「あ、そうだよね……そうだ」
僕はミカとユカの方を向き、
「ミカちゃん、ユカちゃん。もし君達が僕の所に来てくれなかったら、今頃僕は記憶が消えてあの薄暗い場所で永遠に彷徨ってたかもしれない。いろいろとありがとう」
そう言って頭を下げた。
「それなら俺もだな。もしミカちゃんとユカちゃんが来てくれなかったら、俺は実の母さんや兄さんや父さんとも会えなかったな……ありがとう」
姉ちゃんも僕の隣で二人に向かって頭を下げた。
「え、そんな、隆生さんに優美子さん、頭をあげてください!」
「そうですよ! それならわたし達だって、もし迷い込んだ先が隆生さんの所じゃなかったらどうなってたか!」
「ええ。もし隆生さんや優美子様がいなかったらミカさんとユカは……そしておれもこの世にいなかった、いやいたとしても皆さんに出会えなかったかもしれない」
ミカ、ユカ、シューヤがそう言ってくれた。
「それなら私だって。もしミカさんとユカさんが隆生さんの所に行かなかったら、私は父上様と再び会えなかったかもしれません」
「うん、そしてこうして家族三人で暮らす事も出来なかったわ。ありがと、皆」
セイショウさんやランさんも
「オイラだって隆生さんには感謝してるよ。ミカを助けてくれただけじゃなく、オイラにいろんな事を教えてくれた。それがなかったら……」
チャスタも
「あたしも~。もしお兄ちゃんやお姉ちゃん達がいなかったら、あたしおばあちゃんやパパやママに会えたかどうか。そしてカルマお兄ちゃんにも……」
ミルちゃんも
「それなら私もね。あなた達がいなかったら私は妖魔に取り憑かれたままで、そして全ての生物を……」
サオリさんも頭を下げてきた。
「そうね、本当に不思議な縁が合わさって皆こうしてここにいるのね」
アマテラス様が目に涙を浮かべてそう言った。
「さ、皆さん顔をあげて。そろそろ日も暮れますがどうされますか?」
じいちゃんが皆に尋ねた。
「う~ん、今日は帰るよ。あ、ミルちゃんは」
「あたし今日はおじいちゃんとお話するね」
ミルちゃんはじいちゃんの膝の上に座ってそう言った。
「そうしてあげてね、さ、帰ろうか」
「ああ。じゃあ父さん、ミルちゃん。また」
そして僕達は元の世界に、家に帰った。
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