第11話「心の剣が闇を祓い、優しき華に光を照らす」

「シューヤ、呆けてないでユカを止めるよ!」


 そう言ったのはルーだった。

 さっきの光はルーが?

 てか口調が変わってるがルーは酔っ払うとああなるのか?


「あ、ああわかった。でもどうすれば?」

 シューヤが驚きながら尋ねると

「僕がユカの動きを止めるから、君は光心剣をユカに放って。そうすればもう二度と酔ってもああはならないよ」


「え、どうして君が光心剣の事を知ってるんだ!? それに何故そんな事がわかる!?」

「説明は後! さ、行くよ!」

「で、でもおれは光心剣の形は知ってるけど、まだ一度も成功した事がないんだよ……もし失敗したら」

「迷ったらダメだ! 君はユカが大好きなんだろ! 自分の力を、心を信じろ!」

 ルーは真剣な眼差しで語った。

「え? あ、まさか君は、いやあなたは」

「それも後!」

「……はい。では」

 シューヤは魔法の袋から剣を取り出し、目を瞑って抜刀術の構えを取った。

 

「フフフ……サア、フタリデ(ズキューン!)シテ」

 ユカがそう言った時

「はあっ!」

 ルーの、いやたぶん……がユカに向けて手をかざした。

「ウ!」

 おお! ユカの動きが止まった!

「シューヤ!」

「はい……光心剣!」

 シューヤが奥義の名を叫びながら剣を抜くと、そこから白い光が放たれ……それはユカの胸に吸い込まれていった。

 そして

「ア、あ」

 ユカが気を失ってその場に倒れた時、彼女の体から黒い霧が吹き出てきた。

 ってあれはまさか!?


「あ、あれは、もしや妖魔!?」

 シューヤも僕が思ったのと同じ事を言ったが

「あれは妖魔と言うよりストレスだよ。ほら、酔って暴れたり性格変わったりする人っているだろ? あれは程度の差こそあれ溜まったストレスを発散してるんだよ。ユカの場合は彼女自身の潜在能力が凄すぎるからああなっちゃうんだよ」

 ルーが、いや……がそう言った。


 光心剣とはどうやっても祓えない心の闇を祓う秘奥義、それを使わなければいけない程だったなんて。

「ユカがそんなに……側にいて気付かなかったなんて。おれには……資格ないよ」

 シューヤが膝をついて落ち込んでいると、

「こら、そんな事言うんじゃない。ユカは君の事が……だからこれから気をつければいいんだよ」

「……あなたはそれでいいんですか? おれがユカと……しても?」

「いいから言ってるの」

「く、もしあなたが生きてたらおれなんか敵わなかった」

「そうかな? もし僕が生きてても、ユカは絶対君を選ぶだろね」

「そうでしょうか?」

「うん。てか自信持ちなよ。君が持つ心の剣が闇を祓い、優しき華に光を照らしたんだからさ……シューヤ」

「はい?」

「僕がこう言うのも変だけどさ。ユカを頼んだよ」

「……はい!」

 シューヤは真剣な眼差しで彼に言った。




「あの、あれってアゼル王子ですよね。セイショウさん」

「ええ。どうやらルー君にお願いして体を借りたようですね」

「アゼルって私より強いじゃない。じゃあ相打ちになった妖魔ってそんなに強かったの?」

 僕達が話していると

「いえ、今のは僕だけの力じゃなくてルー君の力も借りたからできたんですよ」

 ルー、いやアゼル王子がこっちにやって来た。

 その後ろにはユカを抱きかかえたシューヤがいた。


「そうだったの……ごめんなさい。私がもっと早くこの世界に来ていれば、あなたは」

 キリカさんがアゼル王子に謝罪した。やっぱ気にしてたんだ。

「いえ守護神様、これは武門の習い。お気になさらずに」

 王子は微笑みながらそう言った。

 ……いや、本当に生きていてほしかったよ。

 彼くらい王様に相応しい人、そういないと思うよ。


「では僕はこれで失礼します。あまり長いこと体借りてたらルー君がもたないかもしれないし」

「え? あ、アゼル王子。ユカとは話さなくていいんですか?」

 シューヤが王子に尋ねた。

「いいよ。というより話したら未練が……でも少しだけ言わせて」

 王子はまだ目を開けていないユカを見つめた。

「初めて会った時、君の笑顔を見て僕はね……国同士の約束なんて関係ない。ただ純粋に君が、ね」 

 そしてユカの髪をそっと撫で、

「幸せにね、僕の優しき華、ユカ」

 

 そう言った後、王子は何も言わなくなった。

 

 いや……。

「王子はもう天へ還りましたよ……ふぇ」

 ルーが涙を流しながら言った。

 やはりか。そして

 

「アゼル王子……」

 ユカはシューヤの側に降ろされ、両膝をつき手で顔を覆って泣いていた。

 彼女が既に気がついてたのは僕でもわかるくらいだから、たぶん王子もわかってたんだろうな。 

「ユカ……」

「シューヤ……う、うわあああん!」

 ユカはシューヤの胸にすがりつくと、いつもの彼女からは考えられないほどの大声で泣き出した。


「……さ、皆さん」

「ええ」

 セイショウさんに促されて僕達はその場を後にした。




「あ、そういえば近くにいたアマテラス様達は?」

「アマテラス様ならさっきセリス君とミルさんが担いでどっかへ連れて行きましたよ。たぶん……ハハハ」

 セイショウさんは顔を引き攣らせて空笑いしていた。


 ……。

 想像しないでおこう。

 見た目三十歳の女性が十歳の少年少女に……されてるなんて。

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