第5話「なんじゃその試練は?」
「それは、私が『これは凄い!』と思えるBL小説か漫画を書く事よ!」
ハルフェさんは握り拳を作って叫んだ。
「はえっ!?」
僕達は驚いて間の抜けた声を出してしまった。
ってなんじゃその試練は?
「ねえ、おばあちゃんもBL好きなの?」
「ええ。あら、もって事はミルちゃんも?」
「うん!」
「そう、血は争えないわね。メルさんも好きなようだったし、もし一緒に暮らせていたら二人でミルちゃんに腐女英才教育できたわね……フフフ」
ドゴオッ!
「いきなり何するんですか!? こんな年寄りを殴るなんてあなたは鬼か悪魔ですか!?」
あ、思わず剣の鞘でどついてしまった。
「あの、ハルフェさん、一つ聞いてもいいですか?」
ユカがおそるおそる尋ねた。
「はい、何でしょう?」
「もしかして……ハルフェさんってあの伝説の時空を超えた大貴腐人様でBL作家J・ハープ様ですか?」
は?
「伝説かどうかは知りませんし時空なんか越えてませんが、たしかに私はJ・ハープと名乗って作家やってましたよ」
な、何だってー!?
「私もそんな事知らなかったわ」
そうなんかい。この世界の守護神キリカさんがわからんのなら誰がわかるか。
「ユカ、たしかこっちの母様はその名前をペンネームにしてたのよね?」
ミカがユカに尋ねる。
「うん。時空を超えた伝説の、って聞いていたからもっと昔の人なのかなと思ってた。けどもしかしたら、と思って聞いたら当たっちゃった」
「そうそう、私はかつて王妃カレン様にもこっそり指導させてもらってたのですよ。そしてまたまたこっそり『J・ハープ』のペンネームを差し上げたんですよ」
「そ、そうだったんですか。あの、メルはお母様に指導を受けたんですけど、知ってました?」
「あら、そうでしたか? じゃあメルさんは孫弟子でもあったんですね。ああ、なんという事でしょう。きっと腐女子の神の思し召しよ!」
「あの、腐女子の神様って実際にいるのですか?」
アマテラス様に尋ねると
「~~~♪」
何も言わずあさっての方向を向いて口笛吹きだした。
ってまさかあんたかー!?
「ねえチャスタ、何でこの雰囲気に着いていけるの?」
「……まあ、慣れだよ慣れ」
ルーとチャスタはそんな事を話していた。
「もしユカの家族が今も全員存命だったら、もっと凄い事になってたかも」
シューヤは身震いしていた。
「よくわかんないけど、ユカお姉ちゃんのお父さんとミルちゃんのお父さんが天国でお腹痛そうにしてる気がするよ」
セリスがボソッと呟いた。
そうだろうなあ。嫁と娘が腐女子って……ライアスさんに至っては母親までもが。
「では試練ですが、今すぐという訳にはいかないでしょうから、期限は」
「あの、わたし前に書いたものがあるので読んでくれませんか?」
ユカはハルフェさんが言い終わる前に一冊の本を渡した。
「はい。ふむ……王女様、これなかなかいいですね。でももっと凄いものでないとダメですね」
「……自信作だったのに、シクシク」
待て、ユカが書いたものって前に頼まれて読んだことあるけど結構うまかったぞ。男同士の……はわからんから置いといても、風景とかキャラの表情や内面とかが容易に頭に浮かんだくらいだが、それでもダメ?
「よく書けてはいるんですがね、もう少し……でも王女様、あなたには才能がありますよ。これなら将来きっと私なんかより凄い作家になりますよ、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます! わたし頑張ります!」
ユカは泣き顔から笑顔になって元気よく言った。
「う~ん。あの、これならどうかしら?」
今度はアマテラス様が本を渡した。
ってあんたも持ち歩いてたんかい!
「はい……え、あ」
お? ユカのとは何か反応が違う。
まあ、神様が書いたんだからとてつもなく凄い
「これはダメです」
何だとー!?
「な、なんでよ!?」
「なんというか煩悩丸出し。これじゃ一時的にはウケてもすぐ飽きられてしまいますよ。もっと精進してください」
アマテラス様は凄く落ち込んでいた。
つかハルフェさん、知らないでしょうけどその人さっき言ってた神様ですよ。
「わたしは小説も漫画もうまく書けないし、ダメ」
ミカは読む側なんだな。あ、そうだ。
「あの、キリカさんは書けないんですか?」
「今ユカのをざっと見たけど、あれより上手く書けないわよ」
そうでっか。う~ん、どうしよ?
僕が考え込んでいると
「……あたしが書くわ」
ミルちゃんがそう言った。
「あら、ミルちゃんは書けるの?」
「……ええ、明日までに書く。凄い漫画を」
ん? 気のせいかミルちゃんの雰囲気が何か違うような?
「わかったわ。じゃあこっちの部屋を使って。けどたとえミルちゃんでも容赦はしないわよ」
「うん」
そして僕達はミルちゃんとユカだけ残して村に一軒だけあった宿屋へ移動した。
ユカも残ったのはミルちゃんが「書くの手伝って」と彼女に頼んだから。
その後宿屋の中にある食堂に集まり
「しかしミルちゃんはそんな凄い漫画書けるのか?」
「どうなんだろ? 絵を書いてるとこすら見た事ないけど」
僕と姉ちゃんが話していると
「ね~、隆生は気づいてただろ~? ミルちゃんの雰囲気が違ってたのにさ~」
ヒトシがそう言ってきた。
「え? うん、何か別人みたいだった……別人? あっ!?」
「わかったようだね」
「隆生、ヒトシ、どういう事だ?」
姉ちゃんはわからないようだったので聞いてきた。
ミカやチャスタ、シューヤ、ルーもこっちを見て答えを待っているようだった。
「あの、あれはミルちゃんじゃなくて……だよね?」
「そうだよ~」
な、何だってー!?
姉ちゃんや他の皆の叫び声が聞こえた。
「あれ? 見たらわかるけどなあ~?」
「セリス君、普通はわからないものなんですよ。君だからわかるのですよ」
首を傾げていたセリスにセイショウさんがそう言った。
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