第2話「もう少し考える」

 奥に進んでいき、市民ホールくらい広い部屋に着いた。

 その中央に若草色のローブを羽織った女性が祭壇らしきものに向かって立っていた。

 あれがキリカさんか。


「ん? 誰……あ、セイ兄ちゃん? どうしてここにいるのよ?」

 彼女が振り返り、セイショウさんを見て言った。

「どうしてって? 俺はキリカに会いたくて来たんだが」

 お、セイショウさんもさすがに妹相手だとちょっとくだけた喋り方なんだな。

「あのねえ。あ、アマテラス様も来られたんですか? それと」

 キリカさんは僕に近寄り、顔を覗き込むようにして言った。


「あなたはリュウセイ兄ちゃんの子孫、仁志隆生ね」

「はい。あれ? 僕の事知ってるんですか?」

「ええ。アマテラス様からあなたの事は聞いてたわ。本当に私の記憶にある、リュウセイ兄ちゃんにそっくりね」

 キリカさんは僕の頬を撫でてそう言った。

「そ、そうなんですか?」

「うん。まるで兄ちゃんが今ここにいるかのようだわ」

「あ、あの、リュウセイ様は今どうしてるんですか? その言い方だとずっと会ってないような気がするんですが?」


「そうよ。あの兄は何度生まれ変わって亡くなってはすぐ人間に生まれ変わるのよ。ゆっくり話もできないわ。もういいかげん神として天界に来てくれないかなあ~」

 キリカさんは膨れっ面になった。

「そうねえ、リュウセイは高位の神になれる力を持ってるものね。だから今の人生が終わったら、もう強制的に呼び寄せてやるわ!」

 アマテラス様が握り拳を作って言った。

「今の人生て事は、今の時代にご先祖様が?」

「ええ。そしてあなたの世界の日本にいるわよ」

 キリカさんがそう言った。

「え、そうなんですか? じゃあいつかどこかで会えるかな?」

「どうかしらね? でも今の兄ちゃんは隆生と同世代だから、もしかすると……と、まあこの話はここまでとして、皆さんはどうしてここに?」




「そうですか、世界の修復を手伝いに」

「ええ。ここにいる皆で力を合わせればと思ってね」

 アマテラス様が事情を話すと


「あの、実は調べて分かったのですが、核の損傷部分には妖魔が取り憑いてたんです。あれがこの世界のエネルギーを吸い取ってる限り、いくら修復してもまた」

「え? キリカさんはそいつ倒せないんですか?」

「ええ。というよりまともにやったらたとえ妖魔を倒せても核が余計に傷つき、最悪破壊されてしまうわ」

「……それならどうすれば」

「でもね、ミカとユカ、そしてミルなら核を傷つける事無くあれを倒せるかも」

「え、わたし達が?」

 ミカとユカが自分を指さした。

「ええ。あなた達三人が究極秘術『三身融合』を使い、破邪の力と精霊女王の力を融合させた力を放てば」

「三身融合……聞いた事ないですけど雰囲気からして、三人で融合変身するようなものですか?」

 ミカが尋ねると

「そうよ。でもこれって習得しようとしても、どんな天才でも十年はかかるの。でもあれを使えばすぐにできるようになるわ」

「あれって?」

「シルフィード王家の秘宝。それは城の地下にあるわ」

「秘宝って、そんなものがあったんだ」

 ユカは知らなかったみたいだ。

「あれは本来、王位継承の際に伝えられるものみたいなの」


 それを聞いたユカは黙って下を向いた。

「あ、ごめんなさい。思い出させて」

「いえいいです。それより早く城へ」

 僕達は神殿のすぐ近くにあるシルフィード城へ向かった。

 

 そして城の前にやってきた。

 そこには西洋にあるような白亜の城って、あれ?

「あ、あれ? 元のまま?」

 ユカも城を見て驚いていた。

 そうだよね、僕が思ってるとおりなら城はクーデターで……だからもっとボロボロと思ってたんだけど?

「このお城は生き残った国民が建て直したのよ。彼等は自らの選択が間違っていたと悔いてせめてもの贖罪に、と」

 キリカさんが城を指差しながら言う。


「そうですか、国民が」

「ええ。叶うならユカをこの世界の女王に、と願う者もいるわ」

「へ? この世界ってシルフィード王国以外にも国があるはず……って皆滅んだんですね」

 僕が尋ねると

「そうよ。長い戦いで各国全ての王家が滅んだわ。今この世にいる王家嫡流の生き残りはシルフィードのみよ」


「……でも何故? 別に血筋に拘らなくてもいいかと」

 ユカがそう言うと

「あなたの父親、ヴィント王の行いが今になってね。争いをせず己の命と引き換えに全国民を、いえ世界を守ろうとした彼の志、それを理解できていれば争いはなかったと、皆がやっとわかったのよ。だから」

「その娘であるユカに、ですか……もしそうなったら」

 シューヤが心配そうに呟くと

「そうねえ、ユカが女王になるなら婿はそれ相応の男でなくちゃ。あ、シューヤなら文句ないわね」

「え? ど、どうしてですか?」

 シューヤは驚きながら尋ねた。

「あなたも神剣士タケルと私の子孫だしね。それにあなたには王者の資質があるから、安心してこの世界を任せられるんだけどなあ」

「おれに王者の資質が? 嘘でしょ?」

「本当よ。だってあなたは、もう気づいてるんでしょ?」

「……あ、はい」

 そうか。シューヤの前世はヘルヘイム。

 彼はいいか悪いかは別にしても、類まれなる王者だったよな。


「……あの、もう少し考えてもいいですか?」

 ユカが言うとキリカさんが尋ねた。

「ええ。でもどっちを?」

「……両方」

「ふふ、いいわよ急がなくても。今はあっちのご家族と過ごしたいでしょうしね」

「……はい」

「さ、それはひとまず置いといて。行きましょ」 


 そして僕達は城に入り、地下室へと向かった。

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