第13話「戦いの後に気づいたもの」

 隆生と信玄の戦いが始まった。


 隆生が無言で竹刀を中段に構えると、信玄は太刀を抜かず軍配を手に持って構えた。

「まずは小手調べといくか。かかって来い!」

「ええ、やあぁ!」

 隆生は右足を前に出して踏み込み、信玄の頭目掛けて竹刀を振り上げていったが、信玄はそれを軍配で受け止めた。

「ふ、いい筋だが……そりゃあ!」

 信玄が竹刀を払い、隆生の懐に踏み込み掌底で突き飛ばす。

 だが隆生は倒れずに踏みとどまって竹刀を持ち直し


「突きぃー!」

 信玄の胸を突いたが、信玄も倒れずに踏みとどまった。


「うりゃあぁぁ!」

「なんの!」

 隆生が右に左にと打つが、信玄はそれらすべてを軍配で受け止めていく。


「やっぱまともにやっても駄目か。それなら」

 隆生は信玄から離れて間合いを取り、竹刀を上段に構えて気を集中し始めた。


「む、もう出すか……見せてもらおう、その力」

 信玄はニヤリとしながら身構えた。


 隆生の竹刀に気が集まっていく。そして

「はあっ!」

 竹刀を大きく振り下ろすとそこから光の竜が現れ、轟音と共に勢いよく飛んでいく。


「ぬおっ!?」

 信玄は驚きながらそれを避けた。

 光の竜はそのまま後ろの壁に激突し、大きな音を立てて穴を開けた。


「やるではないか。まともに受け止めていたらやられていたぞ」

 


「あ、あれはまさか、夢幻流・光竜剣」

「やっぱり? わたしも光竜剣と思った。タケルがよく使ってたし」

 シューヤとユカがいう夢幻流とは向こうの世界、大和国の始祖が編み出した剣技でそれは王家と大貴族五公家に伝わるでものである。

 この剣技は一部の例外はあるが基本門外不出である。


「隆生さんはオイラ達の世界の事が見えてるし、それを小説にしてるんだからできるんじゃねえの?」

「あれは見ただけで出来るようなものじゃないわよ。たぶん隆生さんも神力が使えるから?」

 チャスタの言葉にミカが疑問形で答えた。



「くそ、できたけど当たらない」

 隆生は顔を顰めて悔しそうにしていた。

「ふふ、今度はこちらから行くぞ、はっ!」

 信玄が軍配を大きく振るとそこから突風が起こり

「うわあああ!?」

 隆生はそれに吹き飛ばされ壁に激突して倒れたが

「まだまだ!」

 いつの間にか隆生の側に来ていた信玄は隆生を掴み上げると、反対側の壁に投げ飛ばした。

「ぐあ!」

 隆生はまた壁に叩きつけられ、そのまま尻餅をついて動かなくなった。


「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠しんりゃくすること火の如く……まだ残っているがそっちはもう終わりか?」

 信玄は隆生を睨みつけながらそう言った。



「ああ!? り、隆生!」

「優美子お姉ちゃん、隆生お兄ちゃんは大丈夫だよ」

 優美子が慌てて身を乗り出したがミルがその手を引いて止めた。

「え、何故そう思う?」

「だってお兄ちゃんの方が強いもん、ほら」

「あ」



「う……」

 隆生はよろけながらも起き上がった。

「ふふ、そうだ。さあ来い!」

 信玄は嬉しそうに隆生を促した。

「ええ……これならどうだ!」

 隆生の体が光り、そこから無数の光弾が現れ信玄に襲いかかる。

「ならこちらも、動かざること山の如く」

 信玄の体も同じように光り、やはり無数の光弾が現れそれらを撃ち落としていく。 

 そして互いにその場から動かないまま光弾の撃ち合いが続いた。



「隆生さんがあんな強力な神力を出せたなんて……おれはともかく、タケル様でも容易には勝てないかも」

 シューヤが

「信玄公もデタラメに強いわ。魔王軍の元将軍達でもあの方に勝てるかどうか」

 ミカが

「あれなんて言えばいいんだよ、オイラわかんねえ」

 チャスタが

「どうしよう、胸が……」

 ユカがそれぞれ思ったことを呟いた。



 やがて光弾が止むと、互いに肩で息をしていた。

「くそ、このままじゃ勝負がつかない……よし」

 隆生は右足を引き体を右斜めに向け、竹刀を右脇に取りその剣先を後ろに下げる、脇構えをとった。

「次で決めるか。なら、知りがたきこと陰の如く」

 信玄は軍配を放り投げてから太刀を抜くと、その刀を右手側に寄せ左足を前に出す、八相の構えをとった。


 二人が睨み合う。


 それは一瞬のようにも長い時のようにも感じた。


 そして


「動くこと雷霆らいていの如し!」

 信玄の体が光輝き、そしてその体勢のまま隆生に突撃していく。

 その姿はまるで地を駆ける猛虎のように見えた。

「夢幻流奥義・天昇竜剣!」

 隆生が竹刀を下から上に振り上げながら信玄に向かっていく。

 それは天を翔ける竜のように見えた。


 そして互いの太刀と竹刀が交わった時、それは雷が落ちたかのような爆音と共に眩しく光った。


「うわあああ!?」

「め、目が!」

 

 そして光が収まり、二人がいる場所を見ると

「はあ、はあ」

 隆生は息を切らせながら片膝をついていて、信玄はその場に倒れていた。

「……ふふ、隆生、お主の勝ちじゃ」

 信玄は倒れたままそう言った。


「信玄公、あの、ありがとうございました」

 隆生は信玄の側に寄って礼を言った。

「ふふ、礼ならこっちが言いたいわ。謙信以来だぞ、これほどの戦ができたのは」

「……でも、はっきりとは」

「隆生、自信を持て。後ろを振り返ってみろ」

「え? あ」

 そこにはいつの間にか優美子達が来ていた。

「自身の強さだけじゃない、それもお主の理想ではないのか?」

「……はい!」

 隆生は力強く返事をした。

「ふふ。さあ、皆と共に天守閣に行くがいい」

「あ、はい。では」

「ああ。いつの日かまた会おう。その時は温泉に浸かりながら一杯やろうではないか」

 信玄はそう言って姿を消した。

「ええ、いつの日か」




 そして隆生は服を着替え

「おまたせ。さあ皆、天守閣へ行こ」

「……隆生さん」

「ん、どうしたのユカちゃん?」

「ぴと」

 ユカはいきなり隆生に抱きついた。

「ちょ、何すんの!?」

「ちょっとこうしたくなったんです」

 ユカは頬を赤らめてそう言った。

「あたしもする~!」

 ミルはそう言って隆生の背中に飛びついた。

「ええ!? ちょ、二人共離れて!」

「「やだ」」

「ええええ!?」


「ううう、ユカが」

 シューヤは涙を滝のように流していた。

「泣くなよシューヤ。大丈夫だって」

「そうよ。あれたぶん一時的だから」

 チャスタとミカがそう言ってシューヤを慰めた。


「……おのれ」

 優美子は歯軋りしながら隆生達を見ていた。

 ユカやミルに抱きつかれてる隆生が羨ましいのか、それとも。


「隆生、本当に立派になったな」

 勝隆は微笑みながらそう呟いた。


 その後一行は天守閣へと登っていった。




 ……隆生、君は既に持ってるよ。僕が最後に見出したものを。

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