第19話「白き世界で―――神海悟」
―――私をおじさんと姫紀お姉ちゃんの子供にしてください。
その言葉により俺の視界は眩い光と共に真っ白に染め上げられ、とうとう恭子さえも見えなくなっていた。
白き世界でポツンと一人佇む俺。そして、目の前にぼうと現れる一人の男と見慣れた声。
『よう、純。何をそんな情けない顔をしてんだ』
師匠。
―――
何をそんな情けない顔をしているのかって?そんなこと見ればわかるだろう。
俺はプロポーズもできないまま……いや、わかっている。させてもらえなかったんだ。
『はっはっはっ、そうだな。ウチの娘はそういう奴だ。でも、まあ、駄目元で今からでもお前の想いを俺の娘に伝えて見ればいいんじゃないか』
俺とて小さい頃からずっと
『あっはっは!そうだな、そうだな。流石は俺の娘、お前なんかとは覚悟の質が違う。全く異なる』
『だから前から言っていただろう?お前なんかじゃ本気で覚悟を決めた奴には、腹を括った奴には絶対勝てないって』
五月蠅え。五月蠅えよ師匠、それでもこっちだってアンタが死んでからも必死でやってきたんだ。
『どうせ、空回りだろう。誰も傷つけない、誰にも悲しい思いはさせない。そんなチャチな覚悟でやってきたツケが今になって自分に返ってきたワケだ』
『俺の娘は―――恭子はな、自分の全てを引き換えに己の全てを差し出してまで自分を救う為に戦いを挑んだ姫紀ちゃんや、お前という自分にとって一番大切な奴が、何よりも大切な人が苦しんでいる姿をみて、恭子は自分自身に何ができるか考えたんだ』
『そして、唯一無二の答えを出した……それが恭子の覚悟だ』
んなこたわかっている。ああ、そうさ、わかってんだ。記者会見の中継という勇敢であって、なお悲惨すぎたあの内容を見ても決して視線を逸らさず見つめ続けていた恭子の姿を見ていたら、嫌でもわかってしまう。
『いいんじゃないか。あいつの言う通りにしてやれば。お前は姫紀ちゃんていうお前には勿体ないほどの綺麗な心を持ったとびっきり美人な嫁さんを手に入れられる』
『んで恭子を養子にすることで、お前には昔から頼んでいた、俺に何かあったら恭子を頼むっていう俺の願いも叶えられる』
『何よりも……恭子を養子にしたいというのは、お前が望んでいたことじゃないか』
わかっている。……わかってんだよ、そんなことっ!師匠に言われなくてもっ!
『わかっているなら、これ以上ほざくな、藻掻くな、抗うな。腹を括るんだ、お前は絶対恭子には勝てない』
五月蠅え、五月蠅えよ……五月蠅えよ。
『何故なら、あいつは俺の娘だからだ。唯一無二の答えをキッパリ出したあいつは、例え父親である俺だって何を言っても無駄だろうさ』
黙れっ、黙れよこのクソッタレ。
確かに俺は恭子を養子にして自他ともに認める家族になりたいという未来絵図を描いた。
でもな、でもなっ、自分が望んだ未来が永劫変わらずに続くなんて、人の心はそんなに単純に出来てねえんだよ。
俺という人間はそんな完璧に出来てねえんだよっ。
想像できるか?恭子が他の男のところへ向かう為に、師匠の代わりに俺がバージンロードを連れて歩く姿が。
今の俺にはこれっぽっちも想像できねえ。
恭子が俺以外の男に毎日飯を作るのか?
恭子が俺以外の男に毎日オハヨウとオヤスミを言うのか?
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを俺以外の男と誓うのかっ!?
『それは大丈夫なんじゃねえか?……なんせ百万回生まれ変わってもお前以外の男を好きにならないって豪語していたんだ。一生独身を貫く覚悟がある可能性も否定できんしな』
はあっ!?恭子が俺の為に一生独身でいるって?
ふざけんなっ!!
んなことっ!絶対にさせるもんかっ!!?
『こまった奴だな……本当にお前は』
『じゃあ、一体どうするんだ』
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