第7話「後はやるだけ、やってやれだ」
豪快で、盛大で、破天荒な3度目の乾杯をした後の俺と真希先輩は、これからのことを論議を交わしたり、昔話に花を咲かせたりと、これでもかと言わんばかりに大いに盛り上がり、時間を見ると日付が変わろうとしていた。
「あっ、しぇんぱいっ、駄目れふ!ここの飲み代~今日の分は会社持ちなんで~、領収切る時日付かわっちゃったら、佐々木の姉ちゃんが上司に怒られちゃいますぜぇ」
「あんっ?いーのよっ、あんな可愛い子ブリッ子の小娘なんて、甘々の総務部長にちょっと叱られるくらいで、彼女がテヘペロしたらお咎めなしになるに決まってるじゃないっ」
おおっ、現場上がりの女性リーダーは現場を知らない苦労知らずの女の子が許せないってワケですかい?
「いやいや、そーいう訳にはッ、俺わざわざ空港まで迎えにきて貰った恩もありますし~」
「ああんッ!?あんたもあんなブリブリしたのが好みなのっ?はんっ、これだから男共は……まあ、いいわっ、場所変えて飲み直すわよこーはいッ!ちなみに引っ越し先はどこなのよ?」
好みて……たしかにああいう子嫌いじゃないけど……
「あー、多分この近くだと思うんですけど~」
「よーし、コンビニで酒買って第2ラウンドと行きましょーかっ!!」
む。
……ちょっとだけ酔いが醒めた。
というか、俺、昨晩は恭子と色々話込んで寝てないし、飛行機の中ではビックリサプライズで寝れなかったし、九州に着いたら着いたで何故かバッティングセンターやら、カラオケやら、ボーリングやらでめっちゃ体を動かしたし……正直寝たい。
いや、寝る以前に、20時くらいからピッコンピッコン鳴っている恭子からのメッセージを返信せにゃならんし、っていうか、22時くらいからは電話鳴りっぱのまま放置しちゃってるし……
「あの~その前にちょっとおトイレに……」
「OK!行ってこいっ、私はその間にあんたん
……流石は主任殿だ、段取りが良い。トホホ。
スマホを持ってトイレに入った俺は取りあえず大量の着信履歴から恭子へ電話を掛けた。
プルル――ピッ。
2秒で出た。
「あの~、もしもし」
『おじさんっ!!大丈夫ですかっ!?メッセージも返ってこないですし、電話も取ってくれないから、私、心配で、心配でっ―――』
電話取らないくらいで心配て……子供じゃないんだし……
「いや~、あの~、恭子さんっ、ちょっと先輩というか、ちょっと逆らえない人と飲んでまして、電話を取るタイミングが無かったというか……ハイ、すいません」
『ああ~、何もなくて本当に良かったです……って、こんな時間まで飲んでるなんてちょっと羽目を外し過ぎですよっ!!昨日は全然寝てないんですよっ!!今日はゆっくりするって言ってたじゃないですかっ!』
「はいっ、恭子さんの仰ることは重々承知しているつもりです。ごもっともだと存じておりやす」
恭子の告白は俺の勘違いではないだろうか。
だって、これじゃオカンみたいだし。
(あくまでも家族として)大好きだったんですから~……とかだったんじゃないだろうか?
って……なんだよ、家族としての初恋って……
『おじさんがお仕事上色々と無理をしなくちゃいけない事があるのはは知っています!でもですねっ、聞いてください!おじさんは少なくとも一度ならずは体を壊し―――』
「あー、すんませんっ、恭子さんっ、ちょっと逆らったらおっかない人を外で待たせてますんで、お説教の続きはまた明日にでも必ずっ」
『ちょっと待ってくださいッ!おじさんっ、話はまだ終わって―――』
ピッ。
俺はスマン恭子と頭を下げながら電話を切った。
ついでにトイレで用を足した俺が急いで店の外へ向かったら、真希先輩は腕を組んで右足でアスファルトにカツカツを音を鳴らしていた。
「んもぅ~、遅いじゃないッ!そんなに便秘だったの?食物繊維が足りないんじゃないっ?」
酔っている貴女にはデリカシーと思いやりが足りないと思います。
「じゃあ早速行くわよ~、住所教えなさい、住所!来たばっかりなら自分ん
俺は言われるがままにスマホに保存しておいた賃貸アパートの住所を先輩に教え、手を引かれてながらコンビニ経由で自宅へ連行された。
そして自分の家についたと思ったら、管理会社の人が入れておいてくれた事前に送った荷物も荷解きできないまま、カッコンカッコンと飲み続ける真希先輩にひたすらお酌をさせられる俺。
なんだかんだで、気がつくと寝ずのままにカーテン越しから薄っすらと光が差し込む時間になっていた。
「あ~流石に、頭がガンガンするわね……純一くん」
そりゃアレだけ飲めばそうだろうよ。
「どうするんですかい?これから」
「一旦、自分のマンションに帰って着替えとシャワーを浴びるわ……と、その前にこの酒臭い空気を換気したいから窓開けて良い?寒いけど」
酒臭いのは誰の所為だよ。
「どうぞどうぞ、ご勝手に~」
俺が許可を出す前に先輩は勝手にカーテンを開けようとしたのだが、『ん?』と、どこか変な様子だった。
「どうしたんですか?先輩?」
「んー、いや、気のせいかも知れないけど、窓の外の電柱の陰からフラッシュのような光がしたような気がして……」
「気のせいですよ、まだ酔っているんですよ」
「そうね、多分気のせいね」
窓を開けた先輩は『ん~』と背伸びをして、酒と一緒に買っていた栄養ドリンク飲んでから俺のアパートから出て行った。
ちなみに俺はこれから寝る。
多分初出勤まで後2時間くらいしかないけれど、絶対寝る。
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