第4章
独身男の会社員(32歳)が長期出張から帰還するに至る長い経緯
プロローグ「メッセージのやり取りと恭子の究極進化」
転勤という名目で九州へと出張してきてから、既に2週間が経過した。
俺は係長へ昇進したらしいので本来なら管理職の立場なのだが、主任補佐として現場で慌ただしく雑用をしている。
まあ、俺が望んでのことなんだけれど。
ということで、本日も雑用係の俺は皆さんの為に社用車を借りて外回りだ。
ここらの地理には詳しくないんだからカーナビくらい付けておいてくれよと、ここには居ない総務の佐々木さんに心の中で愚痴りながら、ちょいちょい停車しつつスマホの地図アプリを頼りに車を運転していると、何かのイベントの最中なのだろうか、ゆるキャラのキングとも呼べるであろう例の熊の着ぐるみが広場でワコワコしているところへ遭遇。
おっと、これは恭子に自慢してやろう。
スマホの地図アプリをメッセージアプリの写真モードに切り替えて、ピロリンとナイスアングルで一発激写してやった。
メッセージアプリから直接写真を撮ったので、もちろんそのまま相手のスマホへ送信されるわけなのだが……
『おじさん、凄くカワイイですねっ💛💛💛』
2秒で返信が来た。
あれ?今は平日の午前中だから恭子は授業中のはずじゃん。
取り敢えず俺も返信してみる。
『今日は学校じゃないのか?もしかして自習時間とかか?』
ピコン。
また2秒で返信が来た。
『私もおじさんと一緒に見たかったです😢』
俺の質問はガン無視かよ!
埒が明かないので代わりにとっちゃんにメッセージで聞いてみた。
『恭子からいつも即レスが来るんだけど、今とか授業中じゃないの?』
暫く画面を眺めても既読が付かなかったので、取り敢えず目的地へ行くために車の運転を再開したのだが、結局とっちゃんから返信が来たのは昼頃になって通り掛けの喫茶店で昼食を摂っていた時だ。
『オジサマわかってんならそんな時間にメッセージを送っちゃ駄目!これ以上キョウに業を背負わさないで!』
おっかないメッセージだった。
何だよ、業を背負うって……何気ないメッセージのやり取りをしているだけじゃん。授業中はマナーモードにしとけばいいだけじゃん!
っていうか、メッセージを送るなと言われてもさっきから引っ切り無しに恭子の着信が来てんだけど……お弁当やらの画像付きで。
『おじさん、今日のお昼はなんですか?』
『私はとっちゃんと卵焼きを交換しました^^』
『ちゃんとお野菜も食べなきゃだめですよっ』
断続的にメッセージが入ってくるので返信するタイミングが掴めねぇ。
『今日のお昼明けの体育はクラスの皆でバレーボールなんですよっ』
『そう言えばさっき姫紀お姉ちゃんが』
なんか急に変なところでメッセージが途切れ、着信が途絶えた。
姫ちゃんがどうしたんだよ……
『キョウのスマホを取り上げた』
成程、ご苦労。姫ちゃんのことは後日聞くとしよう。多分どうでも良い事だろうしな。
と、まあ、こんな感じで一日トータルすると平均して軽く50件は恭子からメッセージが入ってくる。
寝る前の電話は恐らく今日も2時間コースだ。
今までの恭子からは到底考えられないのだが、メッセージアプリを誰かに乗っ取られておらず、電話先の相手が恭子の声にそっくりな別人とかではないとすれば……
どうやら俺への告白という盛大なカミングアウトをした恭子はその後、結構な構ってちゃんに進化したらしい。
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