第2話「クリスマス?餅つきだよ!」――学園side
「キョウはクリスマスとかどうすんの?」
季節は冬、暦は12月へと差し替わり昼休みの教室内にいる年頃の少年少女たちはクリスマスの話題で持ち切りである。そして、都華子のクラスも例外ではなかった。
「クリスマス……ですか?一応ですけど、その日くらいはカロリーや脂分の高いものをたくさん食べてもらおうかと。おじさん、やっぱりお肉が大好きみたいですし」
「あー、だからここ最近は特に野菜中心のローカロリーなメニューが続いてたんだねー…………って!ご飯の話じゃないから!クリスマスだよ!?乙女にトキメキが訪れる日なんだよ!?」
都華子は「ていっ」と恭子のおでこを小突きながら解釈の違いを指摘する。
「いえ、ですから、その日はおじさんの笑顔がたくさん訪れる日です……よ?」
恭子は突っ込まれたにも関わらず、突かれた額に手を当てて首を傾げていた。
「いやいや、そういうのじゃないから!オジサマなんてこってり系のカップ麺でも与えときゃ、いくらでも笑顔になるから!」
「あ、駄目です。昨日もおじさん、お部屋にインスタントやジャンクフードを隠していたので取り上げたばっかりなんですから」
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!いちいち話が脱線するぅぅぅぅぅぅ!!」
都華子は頭を掻き毟って、抗議の声を荒げてしまったことで、男子を中心とした周囲へ注目を余儀なくした。
「お?おお?神海ぃ!クリスマスの話か!!パーティーやるのか?よしやろう!!プレゼント交換は2000円以内な!!」
複数の男子が聞き耳を立てている中で唯一、有象無象の代表格である三田原隆文が果敢にも彼女らの会話の中へ割り込んだ。
「しっしっ、仮にパーティーするにしてもタカフミはお呼びでないから!!……でもまあ、キョウ……健全な高校生なら普通クリスマスはこういう反応するもんだよ?」
「おいおい、何言ってんだよ相葉!パーティーと言えば俺がいねえと始まらないだろうがよ!?」
恭子が「……みんなでパーティーですか?」と自分では思いもしなかったような反応をしているのを他所に隆文は必死に喰らいついている。
「どうしたん?相葉も神海も、それに隆文まで。クリパの相談してんなら、うちらも混ざっていい?マッコもサオリも今カレシいないみたいだし、それにセンセもどうよ?暇じゃんね?」
更には昼休みに情緒不安定スイッチの入った担任の姫紀をあやしていたヒトミがそれに加わる。
吉沢姫紀は授業や準備など仕事中はいたって普通なのだが、過去のトラウマやそれまでの過酷な日々から急激に一転した平穏な状態を意識してしまうと心中に不安が広がり、以前より彼女の精神安定剤と化しているヒトミは甲斐甲斐しく精神的に介護することが度々あった。
「いいの?先生は皆の楽しそうな催しに混ざっていいのですか?……それはお餅ですか?」
「いやー、センセ、お餅じゃないなー。確かにその時期はみんなで年越しのお餅をついたりしてるけど、クリパはお餅じゃないなー」
吉沢家の前当主により一般的な行事から隔離管理されていた姫紀はいまいちクリスマスパーティーというものを理解しておらず、そんな彼女をヒトミは微塵も笑ったりせず優しく返答する。
「餅なんて、きょうびコンビニでも売ってるよ!クリスマスってのは―――」
バレンタインに並んで乙女たちの警戒心を緩くする一大イベントに僅かな望みをかけている隆文が餅に邪魔されてはなるものかと、必死さを増しているが、肝心のその相手が斜め上の反応をみせていた。
「お餅つき、いいですよね。私も小さい頃やりました。純お兄―――おじさんがタイミングを誤ってお餅をこねているお父さんの手をつきそうになったり……凄く楽しかったです」
「―――クリスマスってのは、やっぱ餅つきだよなあ!!どこだ?どこでやるよ!?」
「うわあ、凄い手のひら返しを見た」
流石の都華子もどう突っ込んでいいやらと、苦笑い。
「あー、そういや確か学園祭の打ち上げんときに神海んちのオジサンがマンションの屋上には何故か臼と杵が置いてあるって言ってなかったけ?違ったっけ神海?」
ヒトミが顎に手を置いて、薄れかけている純一との会話の記憶を思い起こしていた。
「あ、はい。マンションの屋上にはバーベキューセットですとかも、色々と住民の皆さんが皆で使えるように倉庫に置いてあるみたいですね」
「じゃあ打ち上げんときみたく、神海んちのマンションで決まりじゃん。あっ、でもあんときのオジサン人が多すぎてビビってたから、また大勢で詰めかけると迷惑になるかもね」
「そう、ですよね。おじさんお仕事でお疲れでしょうから、ご迷惑になるかもしれません……」
恭子は本来一番にそのことを考慮すべきだったのに、ヒトミに指摘されるまで心なしかワクワクしていた自分に落胆する。
そして、それを傍目で見ていた都華子がスマホを弄り―――
「オジサマから即レスあったよ。ちょうど同僚の人たちも面白そうだからやりたいって言ってたらしいから出来れば10人くらいにしてくれってさー」
都華子はスマホでメッセージを送り同じく会社で昼休み中の純一に了解を取っていた。
「っしゃあ!!それじゃあ俺たち以外の残りのメンバーは、今からじゃんけん大会じゃあ!!」
隆文の合図を皮切りに聞き耳を立てていた男子生徒や楽しそうな雰囲気に興味深々であった女子たちはこぞって立ち上がり、クリスマス餅つきパーティ―参加権を賭した大じゃんけん大会を行ったのである。
ちなみに、じゃんけんに敗退したものたちが無条件に参加権を有してた隆文に対し弾劾裁判を行ったのは昼休みが明けた授業中のことであった。
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