再びの襲来

 ヤム=ナハル。

 『大いなる災禍ファータル・カタストロフィ』で世界が壊滅状態に陥る前、その世界を統治していた世界人類共同体ユニオンによって建造された、潜水可能な巨大戦艦。

 エノシガイオスも、元は、ジョシュア同様に、世界人類共同体ユニオンによって建造が進められていた戦艦であり、そのヤム=ナハルをプロトタイプとして造られたと聞いている。

 海底に沈没していたのが、そのヤム=ナハルだった。



「どうして、そんな遺物が、こんな海底深くに……?」

 ノアが首を傾げる。


「こんな話を聞いたことがある」

 とジークが難しい顔で髭を生やした顎先を摘まみながら。

「ヤム=ナハルは、このカリブ海のグレナディーン諸島近海を潜行中に、突然通信途絶となって、そのまま消息を絶った」


「どういう理由で?」

 ハルキが尋ねるも、

「それについては、今も謎のままだ。原因は解明されていない」


「ねえ、もしかしたら、そのヤム=ナハルのエネルギーが残っていたとしたら、ガイオスの補給に使えるんじゃないかな?」

 ノアが提案した。


「そうか、その手があったか!」

 とジークが指を弾く。

「ガイオスとヤム=ナハルは、いわば兄弟同然の同型艦だ。だとしたら、エネルギーを委譲させるくらいはできるかもしれない」


「そうすれば、また戦えるってことか」

 とハルキ。希望が見えてきた。これでエネルギーの問題は解決できるかもしれない。


「ああ」

 ジークが頷いた時だった。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 突如、コントロール・ルームにアラートが鳴り響き始めた。


 ハルキの胸がざわめく。


〈敵、襲来。レヴィアタンだと思われます。こちらへ向けて、高速潜行してくる模様〉

 アラートにまじり、女性的な合成音声が告げると、ヤム=ナハルを映していたモニターの横に、別のモニターで、そのレヴィアタンが海上を突き進む様が映し出された。


「ちっ、またあいつかよ!」

 とジークが苦々しげに舌打ちする。

「ここいらにも、一匹うろついてやがったか!」


「せっかくいい案が生まれたっていうのに……」

 ノアが嘆くように。


「とりあえず、戦うか逃げるかするしかない」

 とハルキが緊張を滲ませながら。


「だけど、あの時と同じやり方をとるのに十分なエネルギーが、もう残ってないよ?」

「絞り出せばぎりぎりなんとかなるだろ?」

 とジーク。


「議論してる余裕はない。すぐに出撃だ!」

 ハルキがそう言った時だった。


 映像に映っていた、沈没したヤム=ナハルの艦橋にあるハッチが開いたかと思うと、そこから、一人の女性が海中へと勢いよく飛び出してきた。



「あいつ、何者だ……?」

 信じられない光景を前に、ジークが目を見開きながら。


 その女性は、海と同じ深い青色をした髪を振り乱しながら、海中を凄まじいスピードで突き進み、エノシガイオスに襲い来るレヴィアタンの前でぴたりと止まると、その左手首をぱかりと折り、そこから一本の長い槍のようなものを突き出させた。


 突進するレヴィアタンが、その前を塞ぐ青色の髪をした女性に、その額から突き出た角で串刺しにすべく突進する。



「きゃあっ!」

 予想される惨劇を前に、ノアが悲鳴を上げながら両手で目を塞ぐ。


 だが――。


 その青色の髪をした女性は、その角による突撃をひらりと躱したかと思うと、レヴィアタンの胴体にまとわりつき、そのままそこに、長い槍と化した左腕を突き立てた。


 レヴィアタンは、身体から火花を散らしたかと思うと、その身をびくんとくねらせ、勢いをとめ、海底へと沈んでいった。


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