第86話 近くて遠い…
「今日はアタシもK市だよ」
同じ市にいる…。
すぐソコに彼女は居る。
逢いたい…昨日逢ったばかりだけど…なぜだろう…逢いたい…。
彼女の声が聞きたい。
バカなことを言い合って笑いたい…。
僕が笑えるのは、彼女の前だけだから…。
まだ笑えるんだよ…彼女とならば。
『K、愛想ない…』
そんなことが掲示板に書いてあった。
そんなことはないだろうと思う。
彼女の表情は目まぐるしく変化する…。
猫の目のように、細くなったり…丸く広がったり。
もし…彼女の愛想がないのだとしたら…僕のせいかもしれない。
「病まないでね」
最近そう言われたり、メールで送ってくる。
きっと…彼女も悩んでいるのだと思う。
僕が支えなけりゃいけないのに…彼女の心に負担を掛けてしまっている。
車のフロントガラスの前で『猫?のキーホルダー』が揺れる。
この助手席は彼女の場所。
彼女が笑っていられる場所。
「誕生日、バレンタインデーと被るからチョコ買いにくいよ…」
僕は、彼女の誕生日にチョコを贈るつもりだった。
アレコレとネットで調べていた。
「バッグが欲しい」
「…あ…ん…そうなの…」
(予算しだいだが…)
僕の誕生日とクリスマスはキーホルダー。
彼女のクリスマスはGODIVAのチョコ…。
誕生日はバッグか…。
こういうところが、いかにも風俗嬢といった感じがする。
ローリスク・ハイリターンが基本なのだろう。
僕は恋人ではないにしても、過去の彼女の恋愛が気になる。
今と変わらなかったのだろうか…それとも、それがもとでこうなっているのか…。
彼女がいう、ずっと一緒に居たいとはどうゆう状態なのか…僕には解らない。
もっとも、今の僕に結婚を前提にというのも無理な話だから、お互い様なのかもしれない。
風俗嬢と付き合うとは…そんなことを書いてきたが、正直なところ、いわゆる恋人という関係ではないと思う。
客でもなく、友達でもない…。
お互いに気持ちはあるのだが…互いの境遇が恋人という関係に隔たりをもたらしている。
僕が10歳若ければ…勢いで彼女を求めるのだろう。
きっと彼女も同じなのだろう、もう少し若ければ、好きという気持ちだけで動くのだろう。
そういう時期に出会うことは無く…こういうときに出会った。
それが不幸だとは思わないようにしている。
互いに、考えながら関係性の距離を測っているところはある。
それだけ、真剣に向き合っているということかもしれない。
気持ちだけでは、動けない…そういう恋もあるのだ。
きっと僕も…彼女も…初めてのことなんだろうと思う。
手さぐりでしか気持ちに触れられない…そんな恋は…。
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