第84話 願いと期待

『死』を願う…。

 僕にとって、それは目覚めた瞬間から眠る直前まで願い続ける…。

「明日の朝、目覚めませんように…」

 僕は、毎夜そう願う…叶えられない願い。


 死にたいわけじゃないと思う。

 ただ、生きることがツライだけ…。

 生きることを否定するということは、死を選ぶということだ…。


 普段から熟睡することが無いせいか、時折、意識が途切れるように…堕ちる様に眠りに就くことがある。

 30分ほどだが…夢とも現実ともつかないような映像を見る。

 それは浅い眠りがもたらす、耳から入る音が夢に影響を及ぼすのだと思う。

 起きているような…寝ているような…まどろみ。

 重く…まとわりつくような感覚に身体の力が抜けていく…。

 抑え付けられるような眠りが訪れる。


 今日の夢は、酒屋で働いていた。

 僕は働いてるのだが…一人、また一人と休憩室へ店員が消えていく。

 レジに知らない女性が一人いるだけになった。

 僕は、少し開いた休憩室のドアから中を覗き込むと、10人ほどの店員がカレーを食べたり、コーヒーを飲んだり、賑やかに談笑しているのだ。

 店は忙しくなり、レジの女性と僕は忙しくてバタバタとしている。

 その様子を窓から、他の店員が笑いながら見ている…。

 そんな夢だった…。


 目覚めても、何かをやる気力がない。

 文字通り何もしないままに時間が過ぎる…。

 鏡に写る自分の顔…こんな顔だったかな…別人のような…。


 何もせぬまま時間が過ぎ、彼女の送迎に向かう。

 待ち合わせの駅には同じく送迎の車が行きかう、家族…恋人…。

 駅は幾人かの人を飲み込んでは吐きだす…呼吸するかのように。


 僕は何を迎えに来たのだろう…。


 隣の市へ2時間程の移動、これが僕たちの『逢う』ということ。


「桜雪ちゃんから、まだ 『あけおめ ことよろ』って聞いてない」

「……あけましておめでとう」

「違う!『あけおめ ことよろ』って言ってほしいの」

「…あけおめ……ことよろ…」


 彼女が笑う。


 僕は照れくさくなる。


 事務所の近くで、10分ほど口づけを交わしながら話す。

「小説に書いてあること…半分くらい当たってる…」

「ん…半分はハズレてる?」

「うん…なんか、癒されることを求めてるってことはそうだと思う…悪いなって思うけど…SEXは、なんか…あんまりグイグイ来られると嫌になる…」

「…うん…そう思うから…抱きたいって言えないんだ…仕事がそういう仕事だからね…解ってる」

「うん…そうなんだと思う…男だし…SEXしたいんだろうけど…」

「いいんだ…解ってるから…」


 彼女が車から降りて…帰り道、右目が滲みて涙が流れた。

 嬉しさもない…かわりに悲しくも、切なくもない…。

 一筋だけ流れた涙が、彼女のための涙なら良かったのに…。


 抱きたい…のかな…少なくとも今日は、そういう気持ちにならなかった…。

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