第70話 冬の思い出
彼女と出会ったのは真冬。
そのせいだろうか、彼女との思い出は冬が多いような気がする。
真冬の深夜、無職だった僕は、日々やることも無く、ただただ、窓の外の雪を見ていた。
これだけの大雪だと、働いていたら大変だったな~、などと思いながら。
突然、携帯が鳴る。
『K』からだ…こんな時間に、また迎えに来いだろうか…。
僕が電話に出ると、この雪で店の電話が鳴らないのだそうだ。
あたりまえだ。
こんな大雪で車で移動するのも困難な日に、呑気にデリヘルなんて利用する奴はいない。
第一、嬢が来るか来ないかも解らないくらいの大雪だ、呼ぶ気にもならないだろう。
だから…これから柏崎に移動するから自分を呼べというのだ。
こんな大雪の日に営業電話だ。
仕事熱心というか、非常識というか、彼女もそうだが、スタッフもやはり、まともな人間ではないと思った。
最初は断った。
第一、車が雪に埋もれて動かせないのだ。
そうしたら、家の前まで迎えに行くと言いだした。
彼女に自宅を知られてもいいが、店のドライバーに知られるのは嫌だ。
そもそも、事務所の近所なのだ。
あまりにしつこいので、思わずいいよと言った。
どうせ、この雪で隣の市から峠を越えて来るのだ、来れるわけないと思っていた。
しかし来たのだ…。
家の近くで待ち合わせをして、後はドライバーがホテルまで送ってくれるとのことだった。
だが、待ち合わせ場所が解らない。
結局、大雪の中歩いてホテルまで行くことになった。
僕がホテルに向かう途中、みんな除雪している。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
ホテルに着いて、ほどなく彼女も送ってもらえて合流するのだが、ホテル代もない。
彼女に借りて、翌朝、コンビニで降ろして料金と一緒に払うことにした。
部屋に着いても、寒いし、服は濡れてるし。
お風呂に入って温まる。
結局90分料金で、4時間以上居ただろうか…。
ほとんど話していただけだが。
「あのね…ホント電話鳴らないんだよ…助かったよ…0は嫌だよ」
店も、この嬢も普通の感覚で生きてないと感じた。
この天気で、営業しているのはコンビニくらいだよ…と思った。
ホテルからタクシーを呼んだが、いつになるか解らないとのこと。
当然だ…。
ようやく捕まえたタクシーにコンビニ経由で彼女のアパートへ、その後、自宅へ帰った。
正直、どうでもよかった…早く帰りたかった…。
無職じゃなけりゃ、できないことだと思う。
今、彼女を、こんなにも愛おしく思える自分が信じられないくらい、彼女との思い出は、綺麗な思い出が、ないように思う。
いまだに、この夜のことは彼女が口にする、冬の思い出だ。
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