第53話 出勤メール

 風俗サイトに登録していると、オキニ嬢の出勤が更新される度メールが届く。


 風俗をよく利用した時のまま、放置しているので毎日数件届く。

 当然、彼女の出勤も…。


 正直…出勤が決まると少し安心する。

 というと…はっ?と思うだろうが、店に出るということは少なくてもプライベートでは誰にも逢わないということだからだ。

 もちろん、彼女のプライベートなど知らないので、単純にそうだとは言えない。

 それでも、僕は少しだけ安心する。


 そして…安心とは真逆の感情も同時に存在する。

 何度も書いたが、他の男に抱かれるわけだから…むしろ、この感情の方が普通なのだろう。


 明日、僕は彼女を送迎することになっている。

 彼女が行きたがっていたホテルのレストランに連れて行く。

 すでに予約済みだそうだ。

 今の僕には贅沢な店だ、恋人なら、そのままホテルに…となるのだろうが、彼女は、きっとそのまま出勤だと思う。

 むしろ出勤のついでなのだ。


 この小説を書いている段階では、まだ彼女の出勤は未定のまま。


 僕は、少しだけ期待してしまう…。


 もしかしたら、僕のために時間を割いてくれるのかな…と、ありえないことを期待してしまうのだ。

 愚かにも…そして、いつものことだが…出勤が決まると、勝手に落胆する…。

 今夜も、いつもように、もう少しすると…落胆する…。


 他の嬢の出勤メールが届く…。

 何人かは、プライベートで身体を重ねた相手…付き合ってと言われて、幾度かデートした相手…でも付き合おうとは思わなかった。

 風俗嬢だからではない…彼女達が求めているものが身体ではなく『心』だったから…。

 きっと僕は、彼女達に優しかった。

 ときに、服すら脱がせずに彼女達の話を聞くだけの日もあった。

 それでよかった…僕もSEXを求めていたわけではないから…。

 時折、そんな心がカチッとハマることがあるのだろう、それを彼女達は『恋』・『愛』と錯覚するのだ。

 だから…今の僕はソレが解る。

 身体を先に重ねるから…心が置いてけぼりになる…それが風俗の特徴だと思う。


 それは…不自然なのだろう…それが心を迷わせる。


 登った覚えもないのに、山頂にいるのだ、帰りは迷うに決まってる。


 今夜もメールは途切れ、途切れ…。

 客に呼ばれているのか…他の客のメールを、さばいているのか…。


 そのうち、きっとメールが届く『K』の出勤を知らせるメールが…。

 それは、僕を現実へ戻す魔法の言葉…。

 それまでは…僕の時間…僕が夢を見ている時間…。


 この時間が…一番幸せな時間なのかもしれない…。

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