第31話 伝えたくて…

 想い、伝えたくて…。

 いっそハッキリと、逢いたい…抱きたい、と言えばいいのだろうか…。

 僕は、その言葉を飲み込んでしまう。

 実際、SEXしなくてもいい…一日中、買い物に行ったり、映画を観たり、そんな当たり前のデートがしてみたい。

 僕が、彼女を抱きたいと思うのは、きっと嫉妬からだろう。

 実際に抱いたのは2回でしかない、半年に1回…倦怠期の夫婦のようだ…。


 性欲で彼女を抱きたくない。

 それじゃ…彼女に群がる客と同じだから…だから、彼女がしてもいい、と思うときだけ…僕は彼女を抱ける…1度だけ…。

 彼女のすべてに触れたい…ただそれだけ…。

 だから…愛で繋がりたいと願う…。

「僕だけの『N』でいて…他の誰とも…こんなことしないで…」

 祈る様な想いで…僕は彼女に「愛しているよ」と呟く…。


 彼女と結ばれても、満足するわけではない。

 それは、求めているモノが…本当は、身体じゃないから…繋がりたいのはからだじゃない、心だから…。


 互いに、気持ちはあっても、恋人になれるわけじゃない。

 気持ちは、どうやったら伝えられる…教えて欲しい…。


 どうしたら…彼女に解ってもらえるのかな…。


 蝋の翼で空を駆けるイカロスは、その傲慢さから太陽に近づき、蝋の翼が溶け、地に落ちた…。

 イカロスは忠告を無視したのだ。

 海面を飛んではいけない…太陽に近づいてはいけない…。

 それを守れば、優れた能力を得た若者だったのに…。


 僕も同じかもしれない…。


 彼女に近づきすぎなければ…他の誰より、好かれていれるのかもしれない…。

 僕の背に、蝋の翼があったなら、やはり手を伸ばしただろうか…彼女と言う太陽に…。


 愚かな行為…悪露おろかな好意…。


 イカロスの物語は、テクノロジーへの過信、その忠告として語られる。

 僕は、そう受けとれない。

 憧れの場所へ手を伸ばしただけの若者…報われなかった恋のようだと思う。

 自分の存在を知らしめたかったのではないだろうか、想い人に。


 勇気とは呼べない、愚かな行為…。

 僕は…できるのだろうか…もし、彼女に想いを伝える術があったとしても…。

 伝えても…叶わぬかもしれない…そう思うと、伝えられるだろうか…。


 実際、イカロスは拒まれたのだ…地に落ち…そのむくろを見て、どう思う…。

 溶けて当然の翼…所詮、借り物の翼だと笑うだろうか。

 その勇気を称えるだろうか。

 大概の人は、無様だと唾を吐きかけるのではないだろうか?


 伝えたくても…その術があったとしても…僕は、伝えられないかもしれない。


 それでも…僕は、この想いを…いつか翼に変え彼女の心へ届けにいきたい…。

 それが、無様だと唾を吐きかけられようとも…。

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