第23話 今からだって…

 今からでも…何処へでも逢いに行きたい。

 それは本音。

 誰に抱かれた後でもいい…。


 ただ寝顔を見つめていたい。


 僕の感情は、メトロノームのように揺れ動く…ただ不規則なだけ…壊れているから。


 彼女は僕を、ヒーローだと言った。

 困ったときに頼れる人、そんな意味だろう。

 悪くとれば、タダで動いてくれる都合のいい他人かもしれない。


 逢いたい…それは常に僕の心に巣食う想い。

 でも…悲しさは消えない…哀しさは癒えない。

 逢うと安心はする…それは事実だ。

 だけど寂しさも募る…それもまた事実なのだ。


 別れの寂しさは、誰でも感じるだろう。

 違うのは…他の男に抱かせるために別れるということだ。

 慣れることなどないだろう…。

 諦めることはあったとしても…。


 他の誰かを愛せないから…愛しているのだろうか。

 愛しているから…他の誰にも目が行かないのか。


 掲示板のすべてが真実ではない…そしてすべてが嘘でもない。


 たとえ、すべてが真実であったとしても…逢えば僕は彼女を抱きしめる。

 愛おしくて…愛おしくて…。


 僕の愛は壊れている。

 歪んでいる。


 だから彼女を愛せる。

 だから彼女を拒める。


 曖昧な関係を続けている…。


 ただ逢いたい…だけじゃ…もう…。

 なぜ…彼女のことを想うの…。

 他の誰かじゃダメなの…。


 いつもそうでしょ…別れても、すぐに別の誰かがいてくれる。


 それでも…彼女がいいなら、我慢が必要になる。

 それは、今まで僕が経験したことがない気持ち。

 ツラくて…ツラくて…それでも…愛は消えない…。


 馬鹿じゃないの?


 友人に言われなくても、自分で充分に理解できてる。

 ただ…気持ちが他に逸れないだけ…。


 もし…彼女が、掲示板に書かれている様な女性だったとして、他にも僕のような男を制御しているのだとしたら…。

 僕は…どうしようもないバカだ。


 逢えもしない女性のために…100Kmも往復して、チョコを届けるだけのクリスマス。

 彼氏と食べていたら…笑うしかない。


 だから逢いたくなるのか…。

 ただ他の男に逢ってないだけで安心できるから。


 それは恋でも愛でもない。


 壊れたメトロノームが不規則に揺れる…時折、引っ掛かっては時を刻むことを諦めたかのように震える…少しだけ、揺さぶると、また動き出す。


 彼女は、僕を時折揺さぶる…僕は、その度に彼女に好意を寄せる。


 壊れるまで…心、壊れるまで…。

 もう一人の自分が笑う。

 泣きながら踊る道化師を彼女は指先で突くだけ…。

 それは優しく…とても暖かく…それでも僕は、自分をわらう。


 惨めな自分を…ただただわらう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る