第52話 第三の犠牲者
鬼ヶ岬に行くと、切り立った崖の下に、着物姿の男性の遺体が、矢が突き刺さった状態で、血を流し横たわっていた。
「あぁ、何てことじゃ……!」
ウメさんが、膝から崩れる。崖の上には、今までと同じ黒墨で文字の書かれた和紙が、岩場に矢で突き立てられていた。
和紙に書かれていた文字は……。
『鬼を全て討ち取ったり 神の御使い』
雅明君と菖蒲さんの時と全く同じだ!
それにしても、鬼ヶ岬は、昨日探したはずなのに!?これで、吉備家の人間が、三人とも殺された。誰なの、犯人は!?
「くそ……っ!第一容疑者の吉備義明が殺害されるとはな!これで捜査は振り出しだ!!」
側にいた県警と見られる男性が叫ぶ。悔しそうに顔を歪める彼から、本宮君に視線を移した。
「ねぇ、本宮君。ずっと行方不明だったのに、何で何日も経った今、義明さんは殺されたのかな?」
ふと私が疑問を口にすると、本宮君が予想外の言葉を返した。
「殺されたのは、今とは限らない」
「え?」
「殺されたのは、もっと前なんじゃないかしら?」
「もっと前に……!?じゃあ、何のために今、発見されるような場所に?」
そう言うと、傍らで慌ただしく動く県警を見ながら、本宮君が言う。
「義明さんが犯人のように思わせて、捜査を撹乱させるために、今まで遺体をどこかに隠していたんだと思うわ」
捜査を撹乱するために……!?
「でも、あんなに探したのに見つからなかったんだよ?一体どこに義明さんの遺体を隠してたのかしら?」
「……」
本宮君が考え込むように、口元に親指を当てた。
それから、鬼ヶ岬は現場検証で慌ただしく警察関係者が行き交い始めたので、私達は吉備の邸宅に戻る。部屋に戻ってからも、本宮君は窓際の椅子に座り、ずっと事件のことを考えているようだった。
お昼頃、村岡刑事が私達のところに来る。
「本宮。こっちのヤマは目処が立ったから、俺は、夕方、神戸に戻る」
「秀ちゃん。吉備家の事件の方は何か進展あった?」
「吉備義明の検死結果が出たが……殺されたのは、あの岬じゃない。もっと前に、すでに別の場所で殺されて、昨夜、岬から落とされたようだ」
昨夜、岬に!本宮君の言う通り、あそこで殺されたんじゃなかったんだ……!
「だがな、あれだけ何日にも渡り、捜索していたにも関わらず見つからなかった上、こんな季節にしては、遺体が、あまり傷んでいない」
村岡刑事は、続けた。
「それから、腕に、岬から落ちた時に出来たのとは違う擦り傷が、いくつも見つかった。着衣にも、ところどころ小さく破れた箇所があったらしい」
そこまで言った後、村岡刑事は窓辺に行き、窓の向こうの景色を見つめる。
本宮君は口元に親指を当てながら、考え込んだ。
「人の目につかず……遺体が保存しやすい場所……」
それから少しして、本宮君の表情が変わる。
「そうか、もしかして……!」
「本宮君?」
彼は村岡刑事に言った。
「秀ちゃん、連れて行って欲しい所があるの!」
突然のお願いに、村岡刑事が怪訝な表情をする。
「何だよ、急に?どこだ?」
彼の言葉に、本宮君は、ある場所を告げる。
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