第35話 海へ

それから、吉備家の祖先を祭った吉備神社や、討ち取った鬼を埋めたとされる鬼塚。


鬼が住んでいたとされる大洞窟。


吉備家の祖先が、鬼を討ったとされる鬼ヶ岬などを歩いて見て回った。


スポットを回りながら、町の人達に、吉備家に関する聞き込みもしてみたけど、一つだけ、はっきりしているのは、この島において吉備家は、特別な存在だということだ。 


どれくらい特別かと言うと、島の人々は、吉備家を神性視している。この島があるのは、吉備家のおかげだと。現に、吉備神社は、吉備家の所有で、年に一度、かなり大掛かりな神事も執り行われるらしい。


「砂浜の方にも、行ってみる?」


本宮君に言われて、私は頷くと、二人で山を降りていく。


20分程して、真っ白な砂浜にたどり着いた。


「綺麗な浜辺だね!」


青く波立つ海と、白い砂浜。岸に打ち寄せる波音を聞いているだけで、心が洗われる。夕陽が空に浮かび、刻一刻と海へ落ちていく。


「はぁ~いい景色だな」


「そうねぇ」


「ずっと見ていても飽きないくらいだよ」


夕陽は、水平線のすぐ側まで落ちてきた。私は波打ち際に近づくと、屈んで、海水を手のひらに取ってみる。


「綺麗な水」


指の間から溢れる海水は、透き通っていた。


(仕事で来てるのは分かってるけど……)


「海で泳ぎたいな」


心の中で呟いたつもりが、うっかり口にしてしまう。


すると、本宮君が一言。


「いいわよ」


「……えっ?」


思わぬ言葉に、聞き返した。


「一日中とかはダメだけど、短い時間なら、いいわ。明日、ちょっとだけ泳ぎに来る?」


「うん!」


元気に返事してみたけど、ふと気づいた。


「あ、本宮君」


「なあに」


「私は、ちゃっかり水着持って来てるんだけど……。本宮君は、持ってきてないんじゃない?」


そう言うと、意外な答えが返ってくる。


「アタシも実は持ってきちゃったの、水着」


「え、そうなの!」


何だ、私だけじゃないんだと、妙な仲間意識が芽生えた。


「明日、楽しみだなぁ~」


「ちゃんと調査も、手伝ってよ?」


「分かってる、分かってる」


私は、海に沈んでいく夕陽を見ながら、すっかりリゾート気分に浸っていた。


これから、恐ろしい事件が、次々に起こることも知らずに……。

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