第32話 黒墨の予告状

「このような物が、吉備家の庭木で見つかったからです」


取り出された和紙には、黒墨の文字が書かれている。


『罪深き鬼どもに裁きを与える 神の御使い』


……何、これ?鬼とか神とか、訳分かんない。


「差出人の心当たりは?」


不可解な和紙を見た後、本宮君が聞いた。


「全くありません」


「庭木で見つかったと言われましたが、木に打ち付けられてでもいたのですか?」


「はい、矢で打ち付けられていました」


「矢、ですか?」


「その矢なのですが……普通の矢ではないのです」


「と言いますと?」


聞き返した本宮君に、麻子さんが答える。 


「その打ち付けられていた矢というのが……吉備家の宝物庫に保管していた矢なのです」


「宝物庫というと、鍵など掛かっているのでは?」


「はい。普段は掛かっているのですが……何者かが鍵を開け、中から矢を取り出したようです。矢は何本もあって、矢筒に入っていたのですが……。その矢筒と弓、そして、鬼の面が持ち去られていました」


「なるほど。状況は分かりました」


麻子さんの話を聞き終わった本宮君が言った。


「ですから、このような予告状を出し、宝物庫の弓矢や鬼の面を持ち去ったのは何者なのかを調べて頂きたいのです」


「あの、一ついいですか?」


私は、麻子さんに質問する。


「その鬼無島って、瀬戸内海の島ですよね?たぶん調査は一日で終わらないと思うので、何日間か滞在することになるんじゃ……」


すると、麻子さんが言った。


「調査中、吉備家にご宿泊頂いて結構でございます。調査にかかる費用も、全て吉備家がお持ちいたします」


「分かりました。では明日、鬼無島へ渡ります」


本宮君が答える。


「かしこまりました。では、明日お待ちしております。宜しくお願いいたします」


麻子さんは丁寧にお辞儀をした。


「泊まり込みの調査なんて、あるんだね」


麻子さんが帰ってから、私は本宮君に言う。


「あるわよ」


「それにしても……この文章って、何なんだろうね?」


私は、麻子さんの持ってきた和紙を手にしながら聞く。


「麻子さんの話してた鬼無島の伝説と、何か関係があるのかなぁ?」


「そうねぇ。今のところ、何とも言えないけど」


そう言った後、本宮君がパソコンをこちらに向けてきた。


「ほら、鬼無島って、ここよ」


向けられた画面を見ると、青い海と自然豊かな島の画像が写っている。


「へぇ、綺麗な島だね!」


「そんなに観光地化していないから、静かな所みたいね」


島のいくつかの風景画像を見ながら、本宮君が言う。


「そうだね!それにしても、麻子さんが話してた鬼の伝説に関連した場所が、いろいろあるね」


島のいくつかのスポットが載っているけど、鬼が住んでいた洞窟とか、鬼が退治された場所とか、鬼を退治した吉備家の先祖を祭った神社とか。島の様々な所に、鬼伝説にまつわる場所があるようだ。


「何か面白そう!」


「面白そうって……アンタねぇ。観光じゃないのよ?これは、れっきとした調査なんだからね」


呆れたように、本宮君が言った。

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