第6話 新たな事件
結局、本宮君が事務所に戻ってきたのは、夜の8時を少し回ったところだった。
「ごめんね、遅くなって~」
ジャケットを脱ぎながら、本宮君が事務所の中に入ってくる。
「今片付けるね」
私は広げていた資料を片付けた。綺麗になったテーブルに、本宮君のお土産が置かれる。
「今日は、神戸牛のステーキ弁当よ」
「やったぁ!」
思わずガッツポーズを取った私を見て、本宮君がクスクス笑った。
「今、お茶入れてくるわね」
そう言って、本宮君はキッチンに向かう。
それから、お茶と一緒に二人でステーキ弁当を食べ始めた。
「美味しい~!」
一口食べて、私は歓声を上げる。
「それだけ喜んでくれるなら、買ってきたかいがあるわ」
喜ぶ私を見て、微笑みながら本宮君もお弁当に手を伸ばす。
(上品な食べ方だなぁ)
昨日も思ったけど、本宮君の食べ方は、がさつな私と違って品がいい。オネエだからなのか、元々几帳面だからか分からないけど。
「事務所の方は、何か変わったことなかった?」
そう聞かれて、つい見とれていた本宮君の指先から視線を外して答える。
「ううん、特に変わりなかったよ。本宮君の方は?」
「恵さんの以前の職場で起きた通り魔事件のことで、気になることの確認と、今の職場での聞き込みをしてきたわ」
「そうなんだ。で、何か分かったの?」
「今の職場のビルの近くで、黒い車が停まっているのを何人かの社員が目撃してた」
本宮君の言葉に、ムカツく俺様男の顔を思い出す。
「それって、恵さんの旦那だよね?」
本宮君が頷いた。
「その中に車種を覚えている人がいて、沢城氏の車種と一致してたわ」
「あの人、俺様全開の空気はイラつくけど。一応、恵さんのことが心配で、彼女の職場に行ってたのかな?それはそうと……恵さんのストーカーと、通り魔って、もしかして同一人物?」
「たぶん、そうね」
「やっぱり!じゃあ、一体誰が犯人……」
私が、そこまで言った時、つけていたテレビのニュースが耳に飛び込んでくる。
それは、今日の夜、会社帰りの社員が背後から切りつけられたという通り魔のニュース……。
「やだ、物騒ね!」
そう言って、ため息をついた私の隣で本宮君が呟く。
「この通り魔のあった、神戸市中央区の住所……恵さんの今の職場のある所と同じね」
「えっ?」
彼の言葉に、テレビ画面を確認した。
「ほんとだ……!」
すると、本宮君が立ち上がり、スマホでどこかに電話をかけ始める。
「……あ、もしもし、
え?被害者の勤務先って……一体誰にかけてるの?
少しだけ本宮君が無言になった、その後。
「やっぱりね」
納得したように呟き「ありがと」と言って、彼は電話を切った。
「あ、あの、本宮君。一体誰にかけて……?」
「通り魔の被害者の男性。恵さんの今の職場の社員だったわ」
「!?そんな……!?また恵さんの職場で同じことが起きたってこと!?」
「だから言ったでしょ。事件はまだ終わってないって」
そう言って、本宮君はテレビ画面を厳しい目付きで見つめた。
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