水槽の中の脳と戦ったこと

ぶつけていない腕の痛み

刺さっていない足の痛み

病院に行きたいとよく泣いた

野菜炒めから抗生物質の味

よく洗った人参から土の味

自分の味覚が信じられなくなった

どこにもない果物の香り

するはずのないお香の香り

幽霊がいるのかと恐ろしかった

見たことのない景色を見たことがあった

自分で決めたことがいつかの夢の通りになった

未来は全て決定されているのかと絶望した


わからないものは怖い

だから理解しようとした


私が見ている世界は私じゃない私の暇潰しなのだ

誰か寿命の長い生命体がゲームとして行っている遊びなのだ

ロボットのようなものが管理する椅子に座っていて

触感が必要な時は触れさせて

痛みが必要な時は傷つけて

味が必要な時は液体を口にいれて

香りが必要な時は噴霧して

そして私が眠ると休憩に入るのだ

だから、ロボットが上手く動作していないと間違った情報を与えてくるのだ

余計なところに触ったり

別の液体を垂らしたり

戻って来た時に読み込みが上手くいかないと未来のデータを見てしまう

もしくは

脳のように世界の情報を感じる器官を直接いじっているのだ

与えたい感覚がある器官をいじる時に別の器官にぶつかって別の感覚を与えてくるのだ

未来を見たのは動作不良で流し込む映像を間違えたのだろう


成長と共に頻度は減った

成長に伴うバグのような現象はとても恐ろしかった


そして水槽の脳を知った


私以外に私が水槽の中の脳を知る前に思考実験を行っていたことを証明できる人間はいない

だが、このような思考をする人は多いのではないだろうか

なぜなら、私が水槽の中の脳と戦った当時は思春期だったのだから

全ては感受性が豊かだった頃の話だ

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