百十七振目 宇多うだと古宇多

 東北地方には月山・舞草・宝寿など古くからの鍛冶がいたものの、北陸地方は鎌倉末期から南北朝に各国から移住した鍛冶で構成されます。そうした北陸鍛冶は、本国の主流派ではなく支流派たちばかりのため……北陸鍛冶は本国の作風を残しつつ出来劣るため、刀としては北陸物・場違い物などと呼ばれ二流どころか三流として扱われてきたのが古くからの扱いです。

 作風などは色々言われますが、その中で特に言われるのが、「北陸肌」や「北国肌」といった肌が弱く黒ずみ冴えがなく、べたっとしたものです。

 実際その黒さを何と言いますか、全体が黒ずんでいながら表面は白く(布が色褪せて白茶けたような)なって、肌が立っても平坦さを感じるものです。とはいえ、アニメ・ラノベなどで見かける真っ黒刀剣ではない。

 もっとこう……光沢のない古いアルミホイル、アルマイトと言いますか、油粘土っぽい雰囲気と言いますか。うーん、ちょっと違う……まあ、そんなくすんだ薄墨な雰囲気です。


 そうした北陸系の越中国には宇多うだがあり、その中に古宇多こうだと呼ばれる一派が存在します。

 これは大和国宇陀郡から手掻派の刀鍛冶である国光が移住し始まったものです。なお、この国光は宇津古入道と名乗っているように、ほぼ同時代の相模国新藤五国光とは全くの別人(そもそも国光の銘は全国で二十人近くが存在する)です。この初代の国光は初祖であって、作風としては大和系として扱われている……はず。

 そして国光の子にあたる国房が南北朝後期以降に活躍しますが、こちらは同じ越中国の名匠である則重(おそらく二代の方)に学んだとされ、ここらから宇多物として扱われています。

 宇多国房の出来はそこそこ良いとされています。ただし、現存品の大半は室町期以降の後代国房の作という事で、それらの出来は芳しからず。

 この宇多系としては国光・国房・国次・国久・国弘・国宗・国清・国吉・友弘などの他に、弟子筋として友次・真国・友則・友久・平国などもいまして、その後も続いてます。北陸関係ではかなりの勢力を誇った模様かと。


 こうした宇多物の中で南北朝期のものを古宇多、そして室町以降が宇多として区別されています。もちろん出来は古宇多の方が良いとされています。

 なぜ「されています」という表現かと言えば、現存品の大半は室町以降と言われているわりに……現代では宇多をあまり見かけないからです。どうも現代の無銘鑑定では、宇多が古宇多に格上げ鑑定されている気が……。

 それはそれとして、無銘極めに「江→古宇多→為継」の流れがあると言われています。しかし実際に江と古宇多を比べてみますと、この流れは……ちょっと首を捻る感じ。

 江の刀は何とも言えない他にはない不思議な精妙(としか言い様のない)さがありまして、帽子などは到底真似できない具合です。おそらくは、そうした点が気品あると言われるのでしょうが……これが古宇多になるとは到底思えない。

 とはいえ、私も江の全てを見たのではないので、似ている江があると言えばそれまでなのですが。古宇多は古宇多で江にはなりえず、江を落として古宇多にはなりえないかと。

 一方で古宇多から為継への流れは、肌立って刃の中が寂しいとなれば確かにそうなるかな、といった感じはあります。


 以前にあった古宇多ですが、宇多系の経歴通りに大和伝と相州伝を合わせた感じで、刃には金筋砂流しなどが良く出ていました。肌は大和伝的に鍛え割れなどがちょいちょい見られ、確かに肌立ち気味。そして何より鉄の色が濃く暗い! 研ぎの具合などもありますが、擦れたように灰色がかって刃の部分ですら暗め、肌は全体的にマターとしてベターとした感じで、これは鉄が詰んでいると言うよりは、ねっとり平坦に感じる。

 ですから刃の働きは楽しめるものの、古宇多で肌感覚を身につけてしまうと少し困るなという雰囲気(あくまで主観ですが)。


 こうした古宇多は意外にも重ねも厚く茎の状態も良いものが多く、長年大切にされてきたような品が多いです。でも……安い。そして、古宇多の在銘は市場ではあまり見かけず、たいていは流派極めが売られています。

 で、古宇多となると刀の特保で100万から60万の範疇。脇差し保存で20万程度。そして宇多となると……やっぱり市場では殆ど見かけませんが、在銘短刀や刀で70万ぐらいに無銘刀で30万ぐらい。

 ですから、最初に刀剣を買うのであればなかなかお勧め。

 お値段手頃で意外にガッシリ重ねの厚い物が多いですし、刃中の働きで金筋や砂流しを観るに丁度良いですので。ただし肌の具合は、あくまでも北陸物との認識は必要でしょうが。

 重要刀剣の古宇多が売られている姿は見かけませんので値段は不明。しかし古三原と同等の扱いですので古宇多極めであれば200万前後ぐらいかと。


 古宇多の重要合格自体は、そこそこあります。

 必ず毎年とは言わないまでも、そこそこ一本程度は合格しています。こうした点が合格枠があると言われる所以かもしれません。それはさておき、宇田系の重要合格は大半が在銘であって無銘は少ない。そして大半は古宇多であって、宇多は少ない。

 そうしてみると……宇多の在銘は合格枠的には案外狙い目なのかも。とはいえ、あくまでも刀は楽しむもので重要を狙うものではありませんが。

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