百十二振目 薙刀直しなども

 薙刀は薙ぐための刀で、長刀とも書きます。

 平家物語にも描かれているように古来から存在しており、対騎馬でも対人でも非常に実用的な武器とされています。ちなみに槍の登場は室町時代初期ですので、随分と歴史が古いです。

 この薙刀と似たものに長巻きもありますが……両者の分けは、あんまりはっきりしていない感じでして、南北朝期の長大な大薙刀を長巻きとする資料もあれば、刀身の長く伸びた大太刀を長巻きとする資料もあります。

 とはいえ、鑑定書を見てますと後者の方が正でしょうか。


 そちらには興味が薄いため間違いはあるかも知れませんが。

 薙刀も鎌倉時代の頃は頭があまり張らず、南北朝時代は頭が張っています。頭が張るというものは重ねが増した状態ということで、当然ながら先で重量が増すので威力を高める効果があると思われます。頭が張ったものを特に『男薙刀』と呼んでいたようですが、最近は『巴型』と呼んでいるような……。

 こうした薙刀類も室町期に入ってくると製造数が増えていき、特に室町末期になると盛んに造られます。しかし、この頃の作は全体に小作りでスマートな細い形状でして、これを『女薙刀』と呼んでましたが、やはり最近は『静型』と呼ばれているようですが……。

 江戸以降は『女薙刀』が主流となって、そして婦女子の武器というイメージが強くなっています。最近も女子学生などが励んでいるようで、しっかりと現代に受け継がれているようで。


 薙刀などは通常の太刀や刀よりも茎が長く、下手すると刀身部分より長い……ですから置き場所を選びます。よって薙刀はあまり人気がなく通常より安価。これは槍も同様です。

 しかし、薙刀コレクターも槍コレクターも存在するため確実に売れてます。

 薙刀コレクターは会った事があいませんが、槍コレクターとは会いました。槍の白銀色のスラッとした雰囲気が堪らないそうです。そして槍の柄について教えて貰いましたが、刀とは違って柄に横から嵌め込み蓋のように木を被せ、あとはタガを嵌めてました。もちろん、差し込むだけのものもあるそうですが、そちらは抜けなくて困るのだそうです。

 きっと薙刀も同じなのでしょう。


 こうした薙刀や長巻きですが、戦がなくなり平和になりだした江戸初期になると、次々と刀や脇差しなどに作り直されました。

 これを薙刀直し・長巻き直しなどと呼びます。

 槍の場合は菊池槍などが短刀に直された程度で、他は直されていません。何でしょうかね、槍直しという呼びを嫌ったというわけでもないでしょうに……。

 直しにあたって男薙刀は先が大きく反っているため、刀形状に直す際は反った部分を切断せねばなりません。そうなると帽子の返りがなくなるため、薙刀直しの帽子は焼詰となります。

 ですから薙刀直しの刀で帽子に返りがある場合は、薙刀直し写しの刀という可能性が高いです(ああ、ややこしい)。たとえば、室町期作で形状を薙刀直しっぽくして茎も磨上風に目釘孔をいくつも開け、いかにも古作(鎌倉時代風)に作成した薙刀直し風の刀もあります。

 長巻きなど元の形状が菖蒲造り風で大きな反りがなければ、特に先を切断する必要もなく製作当時の刀身を残しています。

 大体は長巻きが刀に、薙刀が脇差しに直された場合が多いです。

 刀に直された長巻きの場合は大鋒風の帽子になるわけですが、これが普通の刀の大鋒とは見た目からして違います。長巻き直しの方が優美で見た目に違和感が無く姿形が美しい。


 とりあえず薙刀直しの感じですが。

 横断面(棟から刃への断面)は潰れた菱形をしており、刃はたっぷりと肉が付き鎬に向け膨らみ重ねが厚くなり、そこから棟に向け再び重ねが削がれて減ります。これは切断威力をあげつつ、刃の通りを良くするための工夫のはず。

 縦断面(茎から鋒への断面)は、手元から物打ち付近まで微妙に厚さを増していき、そこから鋒まで刃肉を残しながら薄くなる。先程の棟側が削がれた部分も、物打ち辺りでは削がれていないため、見た目として頭が張った形状です(ただし脇差しとして使いやすいよう頭が張った箇所を削いで平らにする場合が多い)。

 幅差は元から先までありませんが、反りがあるため先の方が幅広に感じられ、ごつい山刀やマチェットのような頼もしい風情があります。

 一尺二寸ながら、重量感は並の刀と同じぐらい。重量バランスは先が重く、そもそも重ねも手元で0.7cmと厚く手持ち感としては非常にズシッとして重い。

 脇差しながら、下手な刀より攻撃力が高そうでして……これで軽く峰打ちしてみると凄く痛い。ゴスッという感覚で、試しに打った箇所が青痣になるほどの威力。

 これが薙刀として振り回されたなら……相当の威力だった事は間違いないかと。


 薙刀、長巻きは江、則重、則房、一文字、片山一文字、為継、直江志津、大和志津、青江、尻懸などなど、各流派の各刀工が製作しておりますので、その直し物もまた多数存在しています。それぞれの無銘刀とほぼ同じ扱いの金額ですので値段は千差万別。

 審査上での評価も同じくで重要や特重にも存在し名品も数多くあります。

 割合に重ねが厚めでしっかりした作が多いので、これまた狙い目かと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る