百二振目 東京行状記

 ふと思い立って日刀保に連絡、学芸員のアポ取り。

 何故にそんな事をしたかと言えば……手持ちの刀剣を観て貰って研ぎとか雑談したいな、映りについて詳しく聞きたいとか。その他諸々。

 ちなみに学芸員に自分の刀を観て貰う事は、基本NGです。その他NG行為は、真贋を含めた鑑定、重要刀剣等の合否の確認などです。

 ではOKは何かと言えば、重要刀剣など証書が本物かどうか、証書と刀剣が合っているかどうか(すり替えられていないか)などがあげられます。

 今回は、それらとは別で。とあるちょっとした相談といった、ギリギリOK範囲でのこと。


 手持ちの中から二振りを刀鞄に入れ出発……が、運悪く大雨。家を出るのも躊躇う雨降りですがアポを取った以上は行くしかないと出かけました。

 刀は重いです。

 一振りの重量は(正確に計測していませんが)刀身で900g前後、金具と白鞘を合わせたとしても1kgを少し超える程度。それが二本なので、どれだけあっても3kg程度のはずなのですが……これが、ズシッと堪えてしまう。何でしょうね、バランスの問題でしょうか?

 そしてモノがモノだけに人混みを歩くのは神経を使います。

 なお、知っておいて頂きたいのですが! 大勢の人が行き交う駅構内には、荷物を持った相手に対し『故意に体当たりしてくる者』がいますので注意して下さい。最初は気のせいかと思いましたが、特に東京駅などでは必ず一人二人は狙って体当たりをしてくる人が居ますので注意。

 特に大事そうに運んでいると確実狙ってきますので、出来るだけ壁よりに歩いた方が良いかと。

 もちろん注意散漫でフラフラーと動く人も居ますので、そちらも注意を。

 

 その後は格別降雨には遭遇せず、また人間に襲われる事もなく無事に蔵前駅から徒歩で川を渡って刀剣博物館まで到着……なのですが。

 当日は何やら現代刀工関係の集まり? があったようでして。

 そんな時に刀を担いで到着したので、現代刀匠と間違われ受付会場に誘導されかける。勝手に勘違いして「なんだ……」とボヤくのは失礼だと思う。


 それはさておき、二階に行ってようやく学芸員に刀を観て貰う事に。あれやこれやと話をして当初の目的も完了。そして「ここに金線」「この映りはよい」などと話が出来て頗る満足。

 そんな中で興味深かったこととして。

1)一文字は匂でなく沸

 「一文字は匂出来と言われるものの、最近はもう少し小沸出来だったのではと考えられだしている。つまり、制作当時は多少沸づいていたものが研がれ、匂出来になった(研がれすぎると刃が潤むように)。ただし、これは悪い意味ではなく、そうやって最高と賞賛されるフワッとした刃文と映りの風情が生じた」

 これは……どうなのかな? という内容でした。

 それならば、古備前の小沸も研がれて消えてなければいけないでしょうし。いつか、もっと詳しい情報を知りたい。


2)映りについて。

 「判で押したような映り、他の映りを突き抜ける映り、それらは研ぎ減りにより生じたもの――という事でしたが、前述のように悪い意味ではないとのこと。刃文と映りは同一線上に捉えられ、刀身の中にあった焼きが研ぎ減りによって現れて映りにもなっている」

 やはり映りを明確に「これである」と言い切ってくれない。しかし様々な要因要素で生じる刃文の影を映りと捉えている雰囲気でした。

 観て貰った刀は重ね0.7。それが研ぎ減りとは如何にと思いますが、確かに製作当時は0.9や0.8はあったはずなので、そこからは確実に減っている。


3)重要刀剣図譜の押し型

 実物と違いすぎやしませんか、と聞けば「写真ではないので……」と口を濁される。どうやら、押し型を取る人の個性や腕や特徴が出てしまい、寂しく描く人や派手に描く人で差が出てしまうので仕方が無いとのこと。

 一応は実物との差違を気にしているらしい。


4)特重の研ぎ

 いわゆるところの特重研ぎについて聞くと「必要ない」との事。

 「普通に見えていれば審査は問題ない。審査は姿形や状態などから判断するので刀を無闇に減らす事はしないで欲しい」

 そう言われたのですが……しかし以前に別の学芸員は「鑑定に相応しい格の研ぎをせねば合格しません」と言ったので……ここらは学芸員によって意見が違うのかもしれない。


 そして帰ろうとすると……外はかなりの雨。

 ネット雨域を確認すれば一時的のため、下のロビーで待機しつつ雨宿り。またしても現代刀匠と誤解され、先程勘違いした人が「その人違うから」と、やっぱり失礼な発言をしてくれる。

 見ているとかなりの刀匠がゾロゾロと自前の刀剣を持ち込みに来ている。

 いかにもな作務衣に草履姿だったり普通の姿だったり。それなり地位のある人は協会員が駆け寄って案内、普通の人には普通の案内。やっぱり刀匠の世界もヒエラルキーがあるようで面倒くさそうです。

 これだけ刀匠が来るなら知り合いでも来ないか? はたまた来てないか電話してみようか? それで駅まで乗せて貰おうか? などと企んでいると雨が止んだので歩いて帰る事に。


 しかし、休暇を取って言ったのですが。

 それでも何かと仕事が追いかけてくる。職場の若い子から何かとメールで、「不安です」とか「早く帰ってきてー(原文ママ)」とか送られて来るし……。

 こっちはこっちで、面倒くさい。

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