九十二振目 茎は情報の塊3
茎は情報の塊
刀が知りたければ茎を確認。
そして錆以外で手っ取り早く教えてくれるのが「鑢目」というもの。ただし、鑢目の種類や何やらはググってください。どこにでも書いてありますので。
模様だの何だの流派や刀工による違いなど細かい知識はどうだっていい事でして、それより何より大事な事は鑢目こそが技量を示すバロメーターということ。
単純に一定の線が入っているだけに見えますが、実はこれがとても技量を問われるもの。整然と均等に、なおかつ他の鑢目を潰さぬよう入れる事は非常に難しい……と伝えて欲しいそうです(しみじみ語るのは刀工歴40数年の方)。
鑢目は柄から抜け難いようにする目的と言われますが……実際のところ古い鑢目を触れても特段摩擦を感じるものではない(とりあえず、室町期の鑢目を触れた感じでは)。
そうなると鑢目は「刀工が茎に施した偽造防止策だった」説が正しいのではないか、私はそう思いますがどうでしょう。
つまり名工が見事な鑢目を入れると、下手な者は真似できない。鑢目をいれて銘を入れておけば改変した際も判明しやすい。
ICチップもない当時としては、なかなか画期的な偽造防止策だったかも。
しかし、それもイタチごっこ。
誰かが新しい鑢目を入れると、直ぐに誰かが真似をする。かくして鑢目は化粧鑢などと、次々と複雑化し派手になったと想像すると楽しいかも。
では、どんな感じに技量が違うのか。
例えば鑢目が鮮明で分かりやすい現代物を見ますと、人間国宝の鑢目は全ての線が一定角度で端から端までぴしっと入っています。そうでない方では、角度にバラツキがあり太かったり細かったり、浅かったり深かったり、他の鑢目を潰していたりと粗雑。
次に之定の鑢目。
ただし、古いので鷹の羽状態は露骨に残ってません。時代を経て結構摩耗しています。で、その僅かに残った箇所を子細に見ますと……本当に細かく繊細に整然と入っている。
次に江戸期に本阿弥光忠が磨り上げさせた茎を見ます。こちらはしっかり残ってまして、やや深めに整然と入っている。なお、そこに触れたところで摩擦を感じるものではありませんが。
これらの鑢目の間隔を感覚で表現しますと、之定1、本阿弥2、人間国宝3、普通の現代刀工5といった印象。現代刀工にケチを付けるわけではありませんが、やはり古い時代の細かい細工に勝るのは難しそうです。
といったわけで、鑢目を眺めて刀工の技量を推し量るのも一つの手。
その他茎で気付く点として。
1)偽銘
偽銘などで削られた場合は、その周辺だけモヤッとした状態になります。具体的には鉛筆で黒く塗った箇所を消しゴム(シャープペン付属の消えないアレ)で擦って消し損なった感じです。
元から鑢目があれば、消した事を誤魔化そうと後から再度鑢をいれますので、微妙に角度や幅が違い刀工の手癖を再現しきれないので判別しやすい。
とはいえ、そうした偽銘痕も画像では判別しにくい。そもそも怪しい刀の画像では、その辺りだけピントがボケてますし……。
2)大磨上げ
大磨上げで目釘孔が複数ある場合は、段々に磨上げしているわけです。だから下の目釘と上の目釘付近とでは、錆の色合いや鑢目が異なります。
違う年代で茎を改変しているのですので変化があって当然のこと。
ですから、磨り上げた年代や刀の変遷を感じられ面白い。
逆に言えば、大磨上げにもかかわらず錆に年代変化がなければ……大磨上風につくられた刀という可能性も出てくるわけです。
3)茎尻
茎尻は鋒の一番正反対側の端部。
その茎尻の形状種類は様々で(種類はやはりググって下さい)、一般的によくあるのが栗尻です。
これまた、教科書などのお手本は綺麗な栗型の尻が掲載されますが……実際にそこまで見事な栗尻はあんまりない。たとえば「浅い栗尻」と呼ばれる場合は、もう一直線にしか見えず、どこが栗尻なのか分からないぐらいです。
それはともかく。
大磨上の場合一直線にぶつんっと(目釘孔の部分で切るのがセオリー)裁断します。切るのに磨り上げと言うのも変ですが、こうした場合の茎は「大磨上先切り」と呼ばれます。
そうして切った断面は平ら……なのですが、最近入手した刀は、断面が庵棟のように処理されてました。
こんな茎はどう呼ばれるのか? 分からないので日刀保の学芸員に見せると「初めて見た」という事なので、これはなかなかに珍しい状態らしい。
一直線に切ると言われましても、やり方に種類や違いがあるという事のようで。
茎尻ひとつとっても、イロイロありまして刀は面白い。
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