八十六振目 日本刀は値切るべき?

 先に結論を言えば「店による」といったところ。


 昔から言われる事は次のようなもの。

 「趣味で購入するものを値切って買うなど、趣味にもとる」

 「値切るなど日本刀に対する冒涜である」

 「値切りを口にするなど卑しいもので、厳に慎むべきである」

 などなど。

 これらは何と言いますか一昔も二昔も前の、いわば自らの趣味を誇り悠然と生きた人々が存在した頃の意見。そうした人々に対する言葉としては正しいかと思います。(とはいえ、わざわざこんな言葉がある意味を考えるとアレですが)

 しかし私のような一般庶民は、限られたお金を四苦八苦やりくり。人生の他の楽しみを放棄し必要最小限に斬り捨て、何年何年も貯めた上で購入するわけです。

 これが値切らずにおられましょうか。

 というわけで、普通に値切りを口にしてしまう。でも、値切るにしても品格? のようなものがあると思いますが……。

 そうした事を念頭にしながら値切りについて。


 日本刀には定価がないので、各店舗が自由に値段を付けています。

 経理関係はさっぱりですが、通常で考えれば「値段」=「仕入れ価格+販売費用+利益」。この利益の部分をどれだけ見込んでいるかは、各店舗によって違う。

 当然ながら「仕入れ価格+販売費用」は削るわけにはいかない。

 そうなると「利益」の部分が値引き対象になるのですが、そこを無くせと言うのは……人生に余暇など不要、食べて寝て働けと言うにも等しい。

 ですから利益は利益で当然必要……とはいえ、刀剣屋の若い子がレクサス最上級車やボルボの新車に乗る様子を見ると、何とも言えない気分ではあります。


 それはさておき。

 この利益部分が店によってマチマチなので恐い。

 中には値引き前提の値段設定をした店もあり、何も知らず買ってしまえば高く買わされるという場合があるので素直に信じられない。

 ですから、明らかに自分の持つ相場感より高い場合に値引きを口にすべき。まともな店であれば、どうしてそれが高めなのか理由を教えてくれます。そうでない店の場合はスッと引いてみせたり、理由を教えてくれなかったり。

 以下は例ですが、私が体験したものや他の人が体験したものなどなど。

【値引き例1】250万の刀に「高めですね」と告げると240万になり、「ちょっと折り合わない」で230万になり、「うーん」と唸れば220万になる。結果として30万値が下がる。

【値引き例2】800万と言われた刀に「相場より高い」と告げると、店主がニヤリと笑って650万になり、さらに「もう少し引けます?」で600万になる。結果として200万値が下がる。

【値引き例3】150万の刀に「もう少し安くなったりします?」と告げると、店員が電卓を叩きながら悩んだ末に145万になる。

 一応注意ですが、必ずしも上記のような値引きがされるわけではありません。あくまでも、これは相場感があっての事です。

 つまり、例1は200をきるものの、古折紙があったので200少しかな、例2は600前後かなという相場感があるから高い金額で手を出さないだけです。

 例3ではほぼ自分の持つ相場と合っているので、一回だけ「もう少し安くなりません?」と確認している。

 値引きの数字だけを見ますと例2が凄く下げてますが、これは最初にぼられているだけで、例3や例1の店の方がずっと良い店なんですね。

 もちろん例2のように客からぼろうとする店であっても、全く値引かない店もあります。そこで売れずとも、何の相場感もない客が来ればそこで売ればいいのですから(その意味では例2の店は良心的なのかもしれませんが……)。


 もちろん店側も条件を出してくる場合がありまして、値引く代わりに現金一括しか受けなかったりします。また、何度か利用する客だから値引いてくれる部分もあります。

 なお、所有刀を下取りしてもらい購入する場合は基本的に値引いてくれません。

 また委託販売されている品も、基本的に値引きが無理。


 値引きを持ちかける事に心理的抵抗があるかもしれませんが、外国の人は平然と値切ります。たとえ定価販売でも値切るぐらいで、むしろ日本人が値切らなさすぎ。

 軽く尋ねて10万下がれば、時給10万の仕事をしたに等しい。

 ですから気にせず値切るべき。

 けれどしつこくはダメ。

 要は程度問題という事で、しつこくちびちび値切る事はよろしくない。

 これまで見た悪い例として、十万単位万単位千単位で粘りに粘りさらに消費税分まで値切り、ついに店が「買って貰わなくて結構」と販売拒否。そうなると慌てて買うと言いだす。

 でも支払いになると今度は物(手入れ道具など)をねだりだし……これは、さすがにどうかと思うわけです。


 その店で、どれだけ値引きされるか知りたいのであれば……自分の刀を買い取ってもらう事です。

 たとえばA万で買い取られた刀がB万で売りに出されたなら、差分のC万の中に少なくとも販売費用と利益が含まれていると分かりC万の中の半分ぐらいのE万は値引きして貰えそうだと想像できる。次から別のB’万の刀を買うときは、E万付近を目指し値引きを持ちかければいい。

 なお上記のBが明らかに高かったり、もしくはCの半分どころか1割程度しか値引きされなければ、店のスタンスがどんなだか理解出来てしまう。

 賢い店は買い取り品を自店では売らない事が多いのですが。


 なんにせよ買う側に相場感がないと、値引き交渉もできません。

 しっかり各店舗の値段を見て把握しておき、全体の価格感をなんとなくでも持つ必要があります。そうでないと見当違いで相手にもされないですから。

 それから「特価」「お問い合わせ下さい」「価格応談」は、カモられる可能性があるので要注意。ネットで注文すれば値引きも何もないので、直接顔を合わせるか電話するかが大事です。

 あまりしつこい値引き交渉は売ってくれない場合があると知っておくこと。

 とはいえ、常連客になりたくばスパッと買うべきですし……店に利益をもたらせば(ちゃんとした店の場合は)次に良刀を融通してくれたりもします。

 ただし、高額商品を取り扱うような店であれば、それを買ってくれる太客だけにしか目を向けませんので、一般庶民がどれだけ一生懸命買っても意味ない場合もありますが……。


 店が「この刀をこの値段で売りたい」、客が「この値段でも刀が欲しい」となって互いに折り合い取引が出来れば良いのですが……現実はそうでもなく。店が「カモそうな客だからふっかけてやろう」、客が「安く買って儲けたい」となっているから難しい。

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