九十七振目 刀屋で考えさせられる

 なんだかイロイロ遭遇し、考えさせられた時のこと。


 「良い来国光があるから見においで」と連絡を貰い「買う気はないですよ」と念押ししつつ、ほいほいとお出かけ。

 観させて頂いた来国光は無銘ながら地金が心の底から素晴らしい。

 細かな縮緬模様のように地沸が際立つ肌模様は、ため息以外は何も出てこないぐらい(比喩的表現で、刀身を前に息はかけませんが)。

 さらに刃が素晴らしく、元から先までピシッとしてグッと迫るものがある。

 来国俊の緻密に積んだ肌より力強さがあり、青く冴える。恐らく来国光としては最高クラスの出来(博物館、美術館にあるのも含め)だと勝手ながら思うしだい。

 しかし……しかし残念ながら二尺0寸台で二尺一寸に届かない。

 店の人も二尺四寸あれば、自分で買うと断言するレベルではありますが、寸が短いため値段がやや落ち評価も低め(それでも並の来国光よりは上ですが)。

 なんとも残念。

 日本刀の場合は二尺三寸から二尺五寸辺りまでが、お値段の高い範囲。高いとの表現は悪く、その範疇が標準価格であって、そこを外れると安くなると言うべきかもしれません。

 磨上物で二尺0寸から二尺一寸の範囲は値段が下がりますが、短いと脇差し寄りとなるので、不健全という考えなのでしょうか。

 どれぐらい下がるか、たとえば「二尺0寸台×1.2~1.4」=「二尺四寸」といった値段感覚。そしてまた二尺六寸を越えてくると、またまた値が下がる。

 長寸が好きという人もいますが、長すぎるとあんまり売れない。なぜならば保管が大変。刀箱にしろ刀鞄にしろ、二尺六寸程度がギリ(茎の長さにもよりますが)ですので。

 そうなると難しいのが二尺二寸五分を越えた辺りからで、この二尺二寸五分か二尺二寸六分かといった、ほんっとうに微妙な表記の違いで買い手の気分が変わって売れる売れないが出てしまう。

 それなら二尺二寸六分として売れば良い気もしますが、最近は特保でも鑑定書に寸法が入りますので、あんまり違った数字は出せないのだとか。

 まあ、これは真面目な店での苦労話ですが。

 なぜ”真面目な”と付けるかと言えば……寸による値段差を必ずしも売値に反映させているとは限らないからです。二尺0寸台を二尺四寸と同じ値段で買ってしまい、今度は手放す時に思わぬ安値で買い取られガックリするという事も……。

 寸の長さも考えねばならない。


 次に盛光も見せて貰い。地金が素晴らしく刃文もよいが、帽子の返りが甘い点が惜しい。本当に惜しく、帽子の返りが浅め以外は完璧という勿体なさ。

 感想を聞かれ、素直に答えると……「その通りなので帽子を直します」と、聞き捨てならぬ事をさらっと言った。

 長義も見せて貰い。全体としては重要刀剣クラスですが、一部で刃が緩んで甘い点があるので厳しいかなという勿体なさ。

 これまた感想を聞かれ、素直に答えると……「その通りなので刃文を直します」と、またまた聞き捨てならぬ事を言った。

 もちろんそれらは、繕いや再刃とは次元の違う方法だそうで。

 従前からそうした方法があると聞いていたおりましたが、まさか現代で実際に行われるとは思いもよらず、ちょっと意外。

 日刀保で鑑定しても分からない領域の手直しなので問題ないと言えば問題ないものの、直すとは手を加えるという事で、つまりは改変にあたるような……。

 しかし絵画でも修復されたものが偽物かと言えば、そうではないので多少の手直しは問題ないのか……。

 では、銘を直したりもあるか聞けば、「そんな事をしたら詐欺」と言われてしまう。うーん、その辺りの判断基準がムツカシイ……しかし、出来ないとは言わなかった気が……。

 ちょっと考えさせられる。


 さて、そんな感じで過ごしていると他の客が来店。

 こんな時は商売の邪魔せぬようにと、素早く帰るものですが……客である老人の様子がどうにもおかしい。

 顔は真っ赤、目付きもギラギラ、鼻息も荒々しく『何か事件を起こしそう』な雰囲気。そこは刀剣屋、相手は刀を持って来店……相手の隙を窺ったのも無理ない事かと。

 そして老人は怒鳴り散らす。

 内容は偽物をつかまされた騙された、金を返せと騒ぐ合間の話を繋げると、『店で購入した刀剣を勉強会に持って行ったところ、そこで目利きと評判の人にダメ出しをされた』という事で、恥をかかされたと怒り心頭。

 何と言いますか……非常に呆れる話。

 一方で店員は落ち着き慣れた様子。

「返品は受けますが、うちは年に数百振り以上も扱ってます。その上で良い刀だと自信を持って断言できますが。これがダメだと言われる方は、私以上に目利きですか?」だそうで、良い意味での自負と、仕事に誇りを持った言葉で釘を刺す。

 が、ダメ。

 頭に血が昇った人には通じない。

 そして老人は返金を受け取り、あげくに捨て台詞まで言って帰っていった……。

 なお、こうした事は刀剣店では稀にあるそうで。

 一度は買ったものの他の人(特に素人目利き、自称目利き)に貶され嫌になって返品に来る人は時々発生するのだとか。

 とはいえ、店も普通は返品を受け付けません。

 今回はレアケース。

 理由を聞けば「あんな人に持たれては刀が可哀想。これ凄く良い刀なので、直ぐに売れますよ」と、あっさり言った。

 その鑑定会の何とかさんが、何を思ってダメと言ったかは全く謎。

 推定ながら、古刀にしてはあまりにも健全なため、新刀の細工物とでも言ったのかもしれません。しかし日刀保の鑑定書も付いているのに、どう見ても重要どころか特重さえ狙える刀なのに、それを否定する目利きと評判の方は何者なりや。

 なんにせよ、これまたいろいろ考えさせられました。

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