七十六振目 怪しげな場所で訝しみて刀をみる

 久しぶりに怪しげなサイトを閲覧する気になりまして、まだ信用の出来そうな日本国民の約半数が利用するという大手ポータルサイトのそうした場所を見てみる事に。

 日本刀で検索すると、思ったより少なく百かそこらで意外に少ない感じです。

 それらの出品も終わった様子なので、その中から感想を幾つか。

 ちょっと文体が揶揄っぽくなりますが、そうせねば偽を真と表現しているようになりかねず、あえてそうしておりますのであしからず。


1)正宗

 ありました金象嵌銘正宗の未鑑定品。

 皆焼きという事で、さすがは正宗。自分の孫世代で完成した刃文を先取りしていた様です。しかし刀の出来を見たいのですが、どうにも詳細画像を見せてくれません。ひたすらに誉め讃え、如何に正宗が凄く値段も高くなるかを伝えてくれるばかりです。

 なお金象嵌銘は稚拙で妙に盛り上がり、恐らく明治期以降の手によるもの。それなのに本阿弥花押がありまして、墨書の本阿弥花押が参考に並ぶのですが……何故か金象嵌まで墨書と同じ書体になっている。なんて斬新なのか。

 付属品で某超有名大名家の家紋の付いた鞘がありますが、そのわりに家紋の出来が稚拙。大事な家紋がこれでは家名に泥を塗ったと、鞘師もしくは塗師は処罰されたかもしれません。

 説明文を読みますと、「正宗と思います」や「正宗と信じたい」と……あれ?


2)正宗2

 そうこうすると正宗がもう一振り。こちらも未鑑定品

 本物かはさておき、全体画像からみると姿形がよい(いわゆる格好いい)です。

 しかし唐突に正宗の紹介として、正宗展の冊子が出て来ます。冊子の中身が次々掲載され期待を盛り上げてくれますが……発行元の許可は取ってるのでしょうか?

 刀の紹介として、刀身の拡大画像が出ます。

 なかなか親切で、画像では刃取りに隠れてしまう刃文が分かるようにと、押形を並べてくれてます……しかし、よく見れば押形は正宗展冊子に掲載されたものです。どうやら刃取りと似た形状の部分を並べただけで、刃文そのものは刃取りの中に隠れ全く分かりません。

 名家の初蔵出しだそうですが、その根拠となる資料は少しも存在しないので何とも言えません。仮に名家の品として……昔の名家は面子の関係で正宗を一振り持たねばならず。おかげで計算上ながら、正宗という人物は産まれた瞬間から140年以上も不眠不休で刀を造った事になってしまうので……。


3)来国俊

 来国俊の未鑑定品。

 トップに大きく出された刀身画像は見るからに美しく、地金の様子も良い感じ。コレクターさんからの委託品だそうですが、値段が10万円以下で競りにだすとは……どんなコレクターなのでしょうか。

 全体の姿形は来国俊よりは、もう少し後の時代を思わせる雰囲気。来国光辺りには似たような形状があったはずと思いつつ刀身画像を見ていけば、地肌は良い感じで丁寧に掲載してくれます。でもこの肌の詰み具合は新刀期のような……。

 最後に茎の銘が出ますが……なぜかここだけピントが甘いです。あれだけ刀身は詳細だったものが、銘だけは少ししか掲載されません。

 確認出来る範囲で銘を見ますが、そもそも来国俊の俊の字が明らかに違う。さらに鏨跡が妙に太く全体に鈍重で伸びやかさを感じません。詳細は見えないものの、鏨枕が立った雰囲気。

 鏨枕は銘を切る際に、押し退けられた鉄が両脇に盛り上がったものです。何百年という中で摩耗し消えてしまう事が普通。幕末の鏨枕ならともかく、鎌倉時代の作で鏨枕が立っているとは……?

 そう思って茎を見ますと、なんだか錆が取れ鈍色の出ている箇所があるような気が。研ぎ溜まり(刀身と茎の境)が妙に一直線で、錆の色も赤茶色で薄っぺらいような。


4)雲生

 未鑑定の無銘品で、旧所持者である有名コレクターが記した雲生と断言する手書きの意見書を掲載していますが……意見書の存在意義は何なのでしょう。そもそも有名コレクターって誰?

 それはともかく、これを逃すと二度と手に入らない国宝級だそうです。

 数億十数億する国宝を僅か数十万で譲ろうとは、出品者と旧所持者は素晴らしい篤志家と感心せざるを得ません。それに応えてなのか、入札する皆さん数千円単位で出来るだけ安くしようと競っています。

 どこかの本を勝手に引用しまして、雲生の紹介と参考価格が赤線引きで掲載され、親切にも特別重要刀剣や重要刀剣の資料を勝手に掲載し気分を盛り上げてくれます。おかげで、この出品物の画像になかなか辿り着けません。

 ようやく刀が見えましたが、随分と肌が汚い。

 さらに直刃の刃文……ですが細直刃か糸直刃な雰囲気です。その視点で帽子を見ますと、画像が曖昧ながら刃が無いように見えます。斜め画像でも、なんだかあちこちにヒケ傷、刃の中に鍛え割れまであります。


5)之定

 少し気分を変えまして、保存刀剣鑑定書付きで検索をしました。

 之定が出てきましたが、それにしては長さがあり二尺五寸を超えており、確認される中では最長部類です。もしかすると陣太刀用に鍛えられたものかもしれませんが……保存鑑定書を確認しますと「兼定」とあります。あれ?

 確かに之定でも当初は兼定と銘を入れますが、その場合の鑑定書には「兼定(之定初期銘)」と記載されます。そこからすると、之定ではなく後代など別の兼定と鑑定している事になります。これでは之定とは言えません。

 さらに銘が妙に浅く全体が薄らとして茎の錆も青灰色っぽく、まるで一度火にあたったような雰囲気が……そう思って刀身を見ますが、少しギラついた感はあるものの画像からはなんとも言えません。


6)波平

 南北朝期の波平で、見る感じからして確かにそれが感じられ鑑定書もちゃんとしています。値段もお手頃、姿形も波平の雰囲気があり肌も良い感じです。これは間違いなく本物。

 しかし画像を見ますと、刃に錆があるではありませんか。拡大画像になりますと、運悪く光の反射が重なって確認できませんが、全体画像では確認出来ます。茎も色調から確認し難いのですが、よく見ますと黒錆びの間に赤錆も交じっています。刃も研ぎ減りが分かり、隅っこに目立たぬよう掲載されたデータでも重ねが薄い。うーん状態が良くないので、これは保存以上には行けそうにない。

 それでも大名登録とあります。まーた昭和26年3月の末日かと思いきや……なんと昭和26年12月だそうです。ついに大名登録は昭和26年いっぱいまで拡大された?


7)基光

 これは重要刀剣。証書も本物のようですし、刃文も見事。さすがに人気がありまして、入札も白熱し値段が上がっています。もし落札出来なかったとしても大丈夫です、同格が刀剣店で買える値段をとっくに超えてますから。

 詳細に見ていきますと、どうにも重ねが薄めで研ぎ減った感があります。説明では南北朝期の刀なので薄いのが特徴とありますが……それは傾向として薄めというだけ。その重ねの数字からすると研ぎ減りと言うべきではないかと。

 とはいえ刃文は見事ですし重要刀剣になっていますので、特重は無理という事さえ念頭に置けば充分に楽しめそうです。二度と手に入らぬ名刀とは言い過ぎと思いますが……でも全く同じ刀は買えませんので嘘ではないですね。


8)全体として

 この他にも見ましたが……なんともはや。下手に手を出せば後で困る、つまり売るにも売れず処分依頼をするしかない刀ばかりに見えます。

 もちろん中には本物があるのかもしれませんが、リスクを考えれば恐くて到底手を出す気にはなれません。

○鑑定書がない刀

 根拠もなく本物、名家旧蔵と断定されています。怪しい箇所は相変わらずピントが甘く、見せてくれない。銘の部分は何故か暗く不鮮明。刀身などは反射光が多すぎ――最近はLEDの3連照明を使用――確認が難しくなっています。

 だれが書いたか不明な「正真」とある鑑定書らしきものや、研ぎ師やその他の鞘書き、怪しげな折紙などが附された場合もあります。ですが、それら自身が正しい内容なのか、または本物かどうかの判断はつきません。

○鑑定書がある刀

 拡大解釈され、時代区分が記されない銘などは時代を繰り上げられていたり、勝手に代銘扱いや初期銘の扱いをされて説明されていたり。鑑定書と微妙に違う名前や年号で掲載されていたり。

 重ねの薄さや状態の悪さについては、さらっと流される。刃欠けは反射光で隠され、「時代を経た品なので多少の傷はあります。ご了承下さい」とある。

〇面白い文面

「鑑定では△△とされていますが、私がみたところ□□と思われます。一度鑑定に異議を唱え再鑑定に出すのも面白いかもしれません」

「鑑定結果では△△とありますが、銘字を見て頂くと明らかに□□に酷似しています。これは明らかに□□です。それは誰もが分かる事で、□□として所持して頂いて問題ありません」

「新鑑定では□□と鑑定されてしまいましたが、旧鑑定では△△と鑑定されていた名刀です。そのため△△の雰囲気を楽しむことが出来るでしょう」

「残念な事に鑑定では△△となってしまいましたが、これは古△△に間違いありません。再度鑑定に出すことをお勧めします」

「コレクターの方が高齢になり、是非御刀の価値を理解して大事にしてくれる方にお譲りしたいと言われ格安での提供をさせていただきます」

「享保名物帳の焼失之部に記載されるものの、その後現存が確認された刀もあり、本刀もその一振りの可能性を捨てきれません」

 などなど、ああもう突っ込みが追いつかない。

 昔は鑑定に異議があれば協会に乗り込んで騒いで書き換えて貰った……なーんて話もあったりしますが今は無理でしょう。警備員に摘まみ出されるのがオチ。鑑定も登録証番号で管理されているため、同じ刀を再鑑定に出しても意味はない。そしてもちろん市場の判断は個人の感想より、鑑定書の記載を優先します。


 日本で最大手なポータルサイトですらコレです。いわんや、その他はどれほどか。日本刀の偽物はババ抜きと一緒という事を改めて認識したしだい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る