六十五振目 健全な日本刀とは

 日本刀で健全か否かは、製作時の状態を留めているかという事だと考えてます。

 極端に言えば「磨上げ」のように、在銘であったものが無銘となれば不健全ということです。磨上げが不健全かと言えば、それはまた少し語弊があるかもしれませんが……在銘と大磨上無銘では値段が倍ぐらい違う点からすれば、不健全というカテゴリーなのかもしれません。

 もちろん在銘で不健全な刀もあれば、無銘で健全な刀もありますが。


 では、健全でない刀はどんなものかと言えば。

・鋒の焼きがなくなっている

・研ぎ減って刃が減っている

・研ぎ減って重ねが薄くなっている

 ※錆、繕い、再刃などは「状態」に関する事として割愛。

 健全性については他にもあると思いますが、とりあえず思いつく点は以上。これらを、どう見て確認するかは一概に言えない……ですが、全体的な傾向としては次のように捉えて考えています。


1.鋒の焼き

 鋒の焼幅(帽子)がどれぐらいあるかを見ますが、刃文が鋒スレスレに迫り線ほどであれば当然ながら健全ではない。そうした状態は研ぎ減りや、鋒が欠けて直した事が考えられます。

 どれぐらいで焼幅があれば健全か。

 帽子にも種類があるため一概には言えません。言えませんが、感覚としての目安としては以下の通り。

 室町期の刀で、鋒の半分が焼き刃であれば健全。

 鎌倉期の刀で、鋒の1/3が焼き刃であれば健全。半分が焼き刃であれば、とても健全。

 現代刀や江戸末期の刀は健全な刃先をしていますので、それを見ますと本当の健全とはどれぐらいか分かります。


2.刃の減り

 刃が少なければ研ぎ減っており、健全ではないと言えます。

 ただし、焼幅の広狭は流派によって異なります。さらには、細直刃や糸直刃のように最初から刃が少ない場合もあります。皆焼焼きになっていれば、どれだけ減ったかも分からない場合もあります。

 刃が欠けた部分を直したと分かる場合では、「手元付近では焼き幅があるものの物打ち付近の刃文が刃先に迫っている」などもありますが、大抵は上手く全体的に形が整えられているためパッと見では分からない。

 そうなると、刃の終わり部分である区を見て状態を確認するわけですが……でも、区がないから研ぎ減っているとも言い切れず。区は殆んど無いのに刃は健全、逆に区はあるのに刃が少ないといった場合もあります。

 むしろ区から上を見まして、鋒に向かってのラインが妙に凹んでないかを見たほうが良いかも。


3.重ね

 これが一番重要です。

 研げば減るので、重ねが厚いほど健全となります。ただし、重ねも時代や刀鍛冶によって厚かったり薄かったりしますので、薄いからダメとは言えませんが。

 「重ね」と単純に言いましても、日本刀は元と先では厚さが異なります。そのため、一般的に重ねの評価では、ハバキ元辺りの厚さになります。

 ここが厚ければ健全です。

 そして、可能であれば茎とハバキ元の厚さを比較します。製作時点での厚さは「ハバキ元=茎」となります。しかし刀身が研がれていくと「茎>ハバキ元」になっていきます。

 当然ながらハバキは一番厚い箇所に合わせ製作されます。ですからハバキ装着の状態で、ハバキと刀身の間に隙間があるほど研ぎ減りしていると分かります。

(ただし大磨上無銘の場合は最初から「茎>ハバキ元」となります。なにせ、刀身は先に行くほど薄くなるわけですから)


 なんにせよ、重ねは刀の健全性を表す最も顕著なデータです。

 そして……これの表示の仕方で店側の姿勢が分かるデータでもあります。「元重ねと先重ね」、さらには「元重ねの鎬と棟」までも表示する店がある一方……データを表示しない店もあります。または、どれも同じ数値だったり……。


 次に重ねの基準です。

 どれぐらいで厚いか薄いか普通か……刀身の長さや幅によって印象は大きく変わるわけですが、数値的な感覚は次のようになります。(ただし平安や鎌倉の作は研ぎ減りが前提のため、以下より表現が甘くなりますが)

 つるぎ:0.8cmが厚い、0.6cmであれば尋常。

 刀:0.7cm以上が厚い、0.7~0.6cm厚い又は尋常、0.6~0.5cm尋常。

 短刀:0.6~0.5cm厚い、0.4cmまでは尋常扱い。

 なお、数値の表現では0.05単位までが一般的。

 手に取った時の感覚として「0.4薄っ! 0.5少し薄い 0.6違和感なし 0.7厚い 0.8厚っ!」といった感じです。0.4になると玩具のようなペラペラ感。0.8になるとドシッとした存在感。1.0にもなると、何コレ感が強い。

 なお、これは手持ち感にも現れ0.5と0.7の刀では重量感が全く違います。0.8もある長寸の刀であると凄く重い。白鞘に収めた状態でも持てば健全性の想像できてしまう事もあります。

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