五十八振目 不遇な中島来

 鎌倉時代の京都には二代流派が存在し、『粟田口派』と『らい派』です。

 この来派は高麗帰化人の子孫が興した流派と言われてまして、京都西ヶ岡に拠点を構え、それぞれ来国○○といった銘を入れています。祖となる人物は「来国吉」と言われますが、この人物に現存作はないため「来国行」が事実上の祖とされています。

 来派の名人として、来国行(鎌倉中期)、来国俊(鎌倉後期)、来国光(鎌倉末から南北朝)と多数が存在しています(ただし「来国俊」は「国俊」の二名が存在するとされますが)。

 そうした来一族の中に来国長(鎌倉末から南北朝)がいまして、山城国(京都)から摂津国(大阪)の中島に移住したため、居住地の名をとって中島来と呼ばれています。同様に移住し居住地の名がついた来一族として、越前来や鎌倉来や中堂来……中堂来だけは比叡山の中堂で鍛刀したので少し違いますね。


 中堂来は初代二代があり、初代国長が鎌倉末から南北朝、二代国長が南北朝となります。その後は若狭国に移住しますが、後はパッとせず消えます。鑑定上では来国長の無銘については、初代二代を分けず「中島来」と通称するのが一般的。


 来国長は来国俊の弟子や娘婿といった色々な説があり、在銘品は少なめで大半は大磨上無銘。昔は、来国俊や来国光と横並びの評価をされていたのですが……現代では完全に格下扱いとなっており、来国行=来国俊>来国光>>来国長といった不遇な扱いです。

 その原因は推測ですが、近現代の鑑定にあるのではないかと。

 つまり、中島来は来派の鑑定における避難港の扱いをされており、迷ったら「とりあえず中島来」とされるからです。

 実際に重要刀剣の記載を見てみますと、「来派の伝統を継承した作風を見せており、様式的には来国光に似て少し作位の譲る感がある」となっています。この微妙なニュアンスからして、扱いが分かろうかと。

・来派の伝統を継承した……褒めながら来派全体を包括。

・来国光に似て……これで極め処を持ってくる。

・少し作位の譲る感……ちょっと下に設定。

 とまあ、不当に貶められた感がありあり。そんな感じで中島来が極められるため、相対的に評価も落ちていったと思うわけです。


 同じように他流派での避難港とされる極め処として相州系の行光、正宗に対する志津などもありますが、これらとは少しニュアンスが異なります。

 ・行光は「相州系の上作として定め処がない時に選ばれる」

 ・志津は「正宗とみながら少し弱い時に選ばれる」なお、正宗風の無銘品は出来によって正宗→志津→大和志津→直江志津と鑑定が変化していく。

 ・中島来は「来国俊、特に来国光と見て作が少し劣る時に選ばれる」

 こうして見ると、中島来は少し劣るとされたあげく、比較対象である来国俊や来国光が正宗のように抜群の知名度があるわけでもない。そのため、どうにもパッとしないのかも。


 しかしながら本阿弥の金象嵌や附折紙があれば、それは本当の意味で来国長の無銘品となります。これらは、江戸時代の本阿弥家の基準で来国俊や来国光に匹敵するとされた品であるため、当然ながら出来も良いです。

 ただまあ……古折紙時代の鑑定はともかくとして、以降の鑑定では来国長は上記のような不遇な扱いでして……むしろ逆に来国長の良品が来国光や来国俊とされてしまった可能性すらあるわけです。

 そもそも来国長以外にも来一族は多数存在しているのですが、それら来一族の作品は殆んど現存していません。一方で来国俊や来国光の無銘品というものは非常に多く存在しており、しかも出来にバラツキがあるのですから。

 なんにせよ、来系の作品を楽しみたい場合は、中島来というものは、お買い得な刀なのかもしれません。


 では実物はどうかと言えば……大磨上無銘として中島来に鑑定された刀で。これは寛文折紙があるため本当の意味での来国長無銘品などをみます。

 重ねがしっかりとして元先の変わらぬ幅広で、それに応じ鋒は延び気味となる。反りは深く、見るからに立派で良い姿(俗に言えば、格好いい)をした南北朝期の雰囲気を漂わせる。棟部分をみますと、斬り込み疵が四カ所ほどもある。見事斬撃を受け止め所有者を守った見事な刀。

 刃文は匂口の深い広直刃で、下半に少し小互の目が交じり足・葉が入り映りが現れる。鋒は掃き掛けるようにしつつ、尖り気味に返る。

 肌はよく詰んだ小板目ですが、物打ち附近に流れる肌合いが少し出てます。地沸は細かによくつき、そこに地景が入ります。同時代の他流派よりも緻密な肌合い。

 地鉄や刃の感じからすると、間違いなく来国俊や来国光に匹敵します。ただし両者の名品には及びませんが、良品や並品には充分及んでいる。

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