六十振目 斬りは難しい

 巻き藁やゴザであれば、刃筋さえ通れば比較的斬れやすいです。

 でもドンッと重量と幅のある物体は、なかなかそうもいかない。どの斬りにも言えますが、腕力だけでは斬れず腰を入れる必要があります。ただし欧米人など体格に恵まれた者はそうでもないようですが……。

 斬る時の基本的な注意点がいくつか。

 肘をL型に曲げたまま振り下ろしてはダメです。これでは縮こまった斬りになってしまい、見た目も悪くもちろん斬り加減も悪いです。しっかり肘を伸ばすわけですが、そうかといって完全に伸ばす事もよくない。少しだけ遊びをもたせる雰囲気ぐらいで肘を伸ばします。

 振り下ろす際は鋒から先に下ろします。当たり前と言えば当たり前ですが、案外と手元の鐔から先に下ろす人が多い。これは肘を曲げたままのためもありますし、刀の重心バランスが悪く手元が重い場合もあるためです。

 斬る場合の動きは、釣り竿で錘を遠くに飛ばすイメージで。


 藁やゴザの斬りに適した刀は概ね美濃系かと。

 刃の斬れ味はどれも変わりませんが、美濃系の場合は刃肉が削がれており刃から鎬までが鋭角で一直線になっているためです。そのため、スパッといけます。

 逆に鎌倉中期頃の様な刃肉が豊かで、ハマグリ刃と呼ばれるような貝の殻のようにこんもりした刃ですと、固物斬り(ぶっ叩いて断ち斬るイメージ)に適していると言われます。さすがに、鎌倉期の健全な刀で試斬をしようと思いませんので試していませんが……。


 業物だから最上大業物だから斬れるかと言えばそうでもない。

 と、思いますが、しかし……試斬でよく斬れる刀があって銘は兼定。二尺六寸という長さで、刃も冴えない直刃であったので後代兼定と思って斬りまくっていたわけですが……後に手放す際、店で勧められて鑑定したら実は之定初期銘で苦笑い。

 やはり最上大業物は斬れるのかも。


 以下は斬りについてですが、個人的感想。難易度などは人によっては違うかと思いますのであしからず。

■真っ向

 難易度:易

 両足を揃え上段から真っ直ぐに振り降ろし、丹田の前で止める。

 易としていますが、案外と奥深いものです。たとえば横向きに数段積んだ藁の何段目までを斬るとか、真面目に考え出すと案外難しい斬りかも。

 藁なら良いですが、その他の大物(とりあえず、牛とか豚とか)を斬る場合はまた少し違います。

 斬り終えた瞬間を描いた迫力あるイラストなどでは、鋒が地面に振れんばかりで刀身は斜めに振り下ろしていますが……とりあえず牛や豚を斬ったという人の体験談では少し違う。

『最初は勢いでいけるが徐々に手応えが大きく、途中から体重を載せねば斬れなくなる。斬り終えた時の姿勢は自然と背筋を伸ばした軽い前傾、腰を入れるため膝を曲げ尻を落とし、両手は膝の間で止まる。鋒が落ちると力が入らないから刀身は真っ直ぐになる』と聞かされました。

 さらに付け加えるなら、真っ向は実戦向きではないので据え物斬りでしかやるな、とのこと。確かに途中で骨などに刃が噛んでしまえば、抜けなくなりますからね……。

 人それぞれ体格や体型、身体の動かし方で違いがあるので一概には言えません。とりあえずそうした話もあるという程度で。


■袈裟

 難易度:易

 右上に構え、左下に斬り降ろす。右足が前にある状態で斬るため、踏み込みながら斬る事もあれば、左足を後ろにやり身を引きながら斬る事もある。

 背を丸めたり視線が下を向くと鋒が落ちてしまい、勢い余って地面を斬ってしまう。間違いなく一番簡単な斬りです。

■逆袈裟

 難易度:中

 左上に構え、右下に斬り降ろす。基本は袈裟と同じで、足も含め左右逆。

 手の握りが悪いと右手が顔面の前に来て視界を遮ってしまい、または振り下ろした際に軌道がぶれてしまうので難しい。

■右水平薙ぎ

 難易度:中

 左から右に水平に振りますが、高さは鳩尾と臍の間ぐらいです。

 これが以外に難しいもので、上手くやらないと刃筋がズレてしまう。

 なお水平に斬りだせば、対象物は上から落ちてくるため、上方向にズレていると余計に力がかかって斬れなくなる。気持ち下方向に振ると斬れやすいですが、そうなると目測を誤る場合もある。

 手の握りが問われ、親指だけで柄を支えると命中時の反力を支えきれない。

 一旦は棟を左腰に付け、右足の爪先を対象に向け腰の回転と共に腕を軽く伸ばしながら振ると安定する。

 なお、斬る対象は右斜め前の位置を想定しており、正面より左、右真横は斬れません。

■左水平薙ぎ

 難易度:難

 右から左に水平で、基本は右水平と同じ。

 これが難しいのは、右手をどう持つかという点です。手の平全体で柄を持って押すようにせねば反力を受け止めきれないわけですから……。

 左足の爪先を対象に向け振りますが、この爪先の向いた正面までが斬る限界。

■右斬り上げ

 難易度:至難

 左下から右上に斬り上げ。これも持ち手が難しいです。でも、あまりやらない。

■左斬り上げ

 難易度:至難

 右下から左上に斬り上げ。これが一番難しく感じます……。

 一応は斬り方として。左足前、右足後ろ。斬り上げと同時に左足の爪先で踏ん張り、右足爪先を軸として身体を左に捻る。

 スパッと一直線にならず、どうしても断面にカーブがついてしまう……そして、途中で止まってしまう事も多いです。

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