六十六振目 日本刀の鑑賞は自然体で

 そもそも本来は日本刀も日常の雑器であって、過度に珍重し伏して崇めるものではないです。歴史的価値のある文化財は別としまして、もっと気楽に普通の感覚で見たいものです……と思っていましたが、最近は少し考えを変更。

 自分の思っていた普通とは、やって良い悪いを踏まえた上での普通でしかなかった。

 これを例として喩えるのであれば「横断歩道の渡り方」。こんな事は言われるまでもなく、誰しも歩行者信号が青の時点で左右を自然に確認しながら渡るかと思います。ですが、赤の時に左右を見ずに飛び出す人もいるという事も世の中には存在する。そんな相手に、普通に渡りましょうと言っても意味がない、といった事です。


 なぜ、そんな事を思うようになったかと言えば……居合い仲間の一人が、どうしても見たいと騒ぐため、一本持って来て見せた時の事です。

 その時の動きは、

『さっさと手を出し勝手に抜きだす。抜きかけで手を止め左右に傾け眺め、横にしながら抜く。興奮したのか、抜き身を前に喋りまくる。素振りのように振って見せる。この刀のどこが良いの? しょぼい(直刃が理解できないらしい)と否定する。刃に触って本当に斬れるか試そうとする。刀身に息を吐きかけ服の袖で拭おうとする。ふざけて斬りかかる真似をする』

 とまあ……他人から聞いたら「嘘でしょ」と笑いたくなるような出来事がありまして。途中で何度取り上げようと思った事か、でもタイミング悪く手の放せない事が出来たので、もう最悪な……。


 といったわけで、日本刀を鑑賞する際のマナー。

 ただし一般的な事はググればいいので割愛です。

 他では触れられていないような、日本刀を見る場合の大前提についてです。これさえ理解しておけば、細かいマナーを知らずとも正しい行動が出来ます。

 とっても簡単。

・それが武器で他者を傷つける危険がある。

・自分の物ではなく、相手の物を見せて貰っている。

 この二点さえ理解して行動すれば、マナー云々と細かい事は何も必要ないです。


 ググればいいと言いつつ、その観点から幾つか説明。

1)相手の刀を勝手に抜かない。

 殺傷可能な武器を相手の許可無く使用するなどありえない。

 自分の所有物でないので、見せて貰う場合は相手に抜いて貰い渡して貰う。

 茎が見たい場合やハバキを外したい時も同様で、勝手に外したりしません。たとえばハバキが固い場合など、焼き出し付近に傷や茎の錆を削ったりします。ですから、責任の取れない事はしない。

2)相手に刃を向けない。鋒を向けない。振らない。

 これも同様で、殺傷可能な武器という事を考えれば当然の事です。

 鑑賞する際に刃が向く程度は構わないものの、相手に渡す際は自分に刃を向け差し出すようにします。また、相手が受け取りやすいよう相手の動きに配慮して渡せば良いだけです。

3)当て推量で銘を言わない。

 これは少し古い感覚かもしれませんが、刀の格を気にしていた時代など、それを下の格として言えば大変失礼にあたるといった理由です。

 現代の感覚で言えば、相手の事を「○○さんはB型だからマイペースな人でしょ」などと決めつけて言えば、相手にどう思われるかという事ですね。もちろん、ある程度親しく冗談の言える間柄であれば笑って終わるでしょうが、初対面で言えばどうなるか……。

 ですから、相手から銘を尋ねられた場合のみ思う所を口にします。例としては「見てくれ、こいつをどう思う?」「凄く、古備前です」が、大変礼儀正しいやり取りなのです。

4)相手の刀を貶すような事を言わない。

 相手に「君の子供って可愛くないね」と言えばどうなるか考えるまでもないですね。全く同じ事です。ちなみに散々ケチを付けた後に「それ特重だよ」と言われて大恥をかいた人もいますので、自分の為にも下手な事は言わない方が良いです。

 でも最近は相手の心情が理解できず好き放題言ってしまう人。自分と他人の境界が曖昧で、他人が自分と同じ思考だと無邪気に信じる人が多いので……。


 そんな感じです。

 刀を見る際はマスクをして白手袋をして……以前はこんな人もいましたが、これはやり過ぎ。粗雑に扱えとは言いませんが、自然体に接すれば良いと思います。

 あまり四角四面にしゃちほこばれば、慣れていないのがバレバレですから。刀剣屋など慣れきった人の扱いは案外雑です。ただし、やって良い事悪い事の基本を抑えているため、雑であっても刀を傷つける事はありません。

 マスク? そんなものは口を閉じて観れば、それだけの事です。白手袋も普段から手を清潔にしていれば、それだけの事です。

 私は白手袋を使った事がないので知りませんが、使った人に言わせると逆に茎の錆を削ってしまうのだとか。試す気はありませんので、実際はどうか知りませんが。

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