三十八振目 再刃で復活……?
※最下段に追記。
再刃(さいば)とは何らかの理由で刃がなくなった日本刀に再度焼入れで刃をつけたもので、再焼き、焼直しとも呼ばれます。とはいえ、多くは火災で焼けた刀を再生する事や、再生した刀そのものを指す言葉です。
ここでの再刃も火災にあった日本刀についての内容となっています。
近々開かれる再刃を集めた展覧会に向け、少し思い出しながらつらつらと。
日本の歴史は火災とともにあり、大阪城の落城や明暦の大火などによって再刃が施された刀も数多い。有名処として、海老名宗近、不動国行、一期一振、小尻通新藤五、不動行光、木下正宗、甲斐郷、など。
これらは再刃してでも残したかった名刀ですが、もちろん普通の刀剣であっても再刃はされてます。江戸時代であれば、再刃であろうと斬るという機能は変わらぬため問題にされなかったという事でしょう。
しかし、現代の日本刀は美術品扱い。
本来の制作者とは別の人が新たな刃文などを与えているわけですから……彫刻であれば、作品の表面を全て削り取り別人が再彫刻したようなもの。美術品としてはどれだけ致命的か分かろうもの。
よって現代では再刃は忌むべき存在とされ、値段は十分の一程度まで落ちます。相州伝最上位の一人の在銘短刀で本来一千万円級の品であっても、再刃となれば百万円そこそこになるわけです。
なんにせよ日本刀の最大の敵は錆よりも火事。
日刀保の審査規定で保存と特別保存は「再刃はその旨を注記して合格とする場合がある」とありますが、重要と特重の規定では何も記載されていません。ただし重要にも一応は合格した品はあります。
たとえば新藤五であれば二振りが重要になっています。ただし、片方は年紀表記が有り資料的価値が高く、もう片方は号のついている歴史的価値の高いものです。こうした場合の記載は、「国光(再刃)」といった感じになります。
鑑定書に注記されるので安心……とならないのが、また怖い。
ある時ある店で、そこでの購入品を重要刀剣申請に出したら「再刃の疑いがある」として不合格になったと怒鳴り込んできた人がいました。もし鑑定書に注記されているなら文句も出ないわけですから……これいかに。
お店に悪いから退席したけど最後まで聞いておけば良かったかも。
なお再刃の品は普通のお店では、あまり見かけない。
上記であげた「合格とする場合がある」となっている真意は、基本的には保存にも特別保存にも合格しないという事です。銘の状態が極めて良いとか、資料的価値があるとか……欠点を補うだけの、よっぽど理由がなければ却下。
つまり無鑑状態です。
普通のお店は品に絶対の自信がない限り、最低でも保存がついてなければ取り扱わない。また、仮に再刃と鑑定された品があろうと、あらぬ噂がたつため再刃の刀を売る事自体を大っぴらにはしません。
「面白いの手に入れたよ。再刃だよ。うちで買ったと言わないなら、お譲りしますよ」といった調子で、こそこそっと話をくれた程度です。
だから滅多に見ない。
そうなると、どこで売られているかと言えば……保存にも特別保存にも合格しないような刀が大っぴらに流通している場所。そうした場所では逆に遭遇する可能性が高いかと。やあ、どこでしょね。
「貴重な○○の刀」「かの有名な○○国宝級」「○○在銘正真保証」「今なら無鑑ですが、これに鑑定がつくと○○百万円はします」などと添えられ、欲にかられた人を待っているかも。
再刃だから悪いとは思いませんが、再刃と知らず騙され入手するのは金銭的に非常に辛い。価値が一割に低下するわけですからねえ……。
見わけ方は種々様々に言われてますが、しかし判別する事は簡単でないです。実際に見ても、本当に分かるかと言えば……正直に言って分かりませんでした。
一応、よく言われる見分け方です。
1.水影
焼き出し付近に生じる薄い影。刀身に再焼きをする際、水に入った部分と入らなかった部分の境目に生じます。水が沸騰し、その時に自ら上の部分で痕跡が残るのだそうです。
ただし、出ない場合もありますし、出ても後から消す処理や磨上により消される場合もあります。実際、これが水影と言われても薄い線でほとんど見えず全く分からない。
2.刃文と地肌
刃文がどこか「きぶい」(意味としては、キツイ、強い、厳しい)。
地肌が妙に無地風であったり、逆に荒れた地沸がつく。
その時代や作者に相応しくない刃文となる。沸出来が匂出来や、またはその逆。直刃の刀匠が互の目を焼いているなど。
例:新藤五国光で互の目になっているとか。
3.映り
備前伝(南北朝時代ぐらいまでの)で映りが無い。
4.茎
茎が最も分かり易い。
再刃の前に、一度火災で焼けているため、その影響によって「焙じ茎」と呼ばれる状態となって以下のような症状が現れる。
・朽ちたように乾燥した錆や赤錆が生じている。
・細かな泡状の穴が両面に生じている。
・錆の表面が凹凸が激しい、又はとろけたようになっている。
・銘が妙に薄く、鏨で彫られた線が浅く薄くなっている。
そんなこんなで茎が最も火の影響を受けやすいため、再刃で焼き入れを行う際は茎に熱を加えぬよう濡雑巾や生大根などで保護して行うのだとか。
追記
鑑定書は(再刃)と条件付きで過去には出されてましたが、最近は出されておらず保存すら付きません。
古い時代の再刃は、ものによってはほとんど分かりません。刀身を見ても気付かない。銘をみて本来の刃文と違うという点で、ようやく疑念を抱くレベルの品もあります。
結局分かるのは茎の色合いや感触。
慣れないうちでも、何となく違和感を感じる。奇妙さとでも言いますか、錆色が妙に青黒く雰囲気が通常と異なる。そして表面が乾いたようにカサッとしてザラッとしている印象を受けます。
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