三十五振目 銘のこと2
日本刀の茎に「銘」が入れられるわけですが、制作者の名前であり刀の名前でもあります。
これは大宝律令によって「年月と姓名」を入れるよう義務づけられた事が始まりです。制作者名を明らかにする事で製造責任を持たせ、いい加減な仕事をするなという事でしょうか。
しかしながら「年月と姓名」を現存品で確認出来るのは、姓名は平安時代末頃から、年月(年紀)は鎌倉以降、受領銘でも〇〇守と入れるようになったのは室町時代後期となります。
それはそれとして、「銘」と呼ばれるものにも種類がいろいろ。
■最初からのもの
◇刀工銘
本人が入れたもので平安時代末以降の日本刀に見られる。ただし、備前伝の南北朝期以降や美濃伝などでは専門の銘切り師が存在したため、必ずしも本人が入れているとは限らない。
刀工銘のみの「二字銘」、刀工銘にもう一文字(作、造、上など)の「三字銘」、これらに在住地の国や村などをくわえたバージョンがある。
ひと文字だけあった場合。たとえば「備前国なんちゃら」の「備」だけの状態でも鑑定上では在銘(もっとも、お値段には反映されてしまうけれど)となる。
ひと文字バージョンでも二字銘などで、たとえば「景光」の「景」だけがある場合などは値段や価値としては、在銘と無銘の間ぐらいに扱われる事が多い。
鑑定書では判読し難い部分は、□の中に文字が入った状態で表現される。判読不能な場合は□だけで現される。
◇紀年銘
制作時の年紀を入れたもので鎌倉時代以降のものに見られる。よく二月と八月が多いと言われるものの、実はそんな事もない(その傾向はせいぜいが室町時代の備前のことか)。
なお、四の数字は二二と横に並んで入れられる。
◇代銘
本人でなく、その弟子などが代作したものの銘を言う。もちろん名を任せるだけの技量と指導監督が行われているため、出来が良い場合が多い。市場に出回るものでは、たとえば国広、国貞などでよく見かける。
◇注文銘
江戸時代以降の新刀に多く、これらが大半。注文を受け製作したものであるため入念作(気合いを入れて製作した)になり、当然ながら出来の良い場合が多い。
◇受領銘
刀工銘と同じながら別扱いで。〇〇守〇〇と入っている。室町時代後期より和泉守を始めとして〇〇守と入れだす。ただし、粟田口久国や備前の信房がそれぞれ〇〇守を受領している。
◇俗銘
刀工の俗名が入ったもの。末古刀の備前辺りに多く、これが入ったものは入念作である場合が多い。(末古刀辺りは数打ちの大量生産が行われ、一律に二字銘等が入れられたため、気合いを入れた作には俗名を入れている)
出来が同じ程度とすれば、受領銘+刀工銘+紀年銘が揃った長銘である方が当然ながら値段も高くなります。
■後からのもの
◇偽銘
別の人が別の刀に他人の銘を入れた偽物。本人以外がいれているため、銘字に躊躇いが見られ伸びやかさが足りない。在銘を削って偽銘を入れた場合は、茎の一部が妙に削れている。
◇追っかけ銘
偽銘の別名。
◇所持銘
所有者が自分の持ち物として〇〇所持として名前を入れたりしたもの。それを入れたくなる価値ある品という事で名品が多い。
◇切りつけ銘
後世に磨上げ、樋入れ、試し斬り、鑑定した場合などにその事を記したもの。
◇裁断銘
江戸時代初期以降から行われたもので、一つ胴、二つ胴などと斬れ味を示す。初期は銀象嵌、途中から金象嵌、幕末頃は切りつけとなる。
◇号銘
銘とは別もので、その刀自体につけられた名前で愛称が金象嵌されたもの。たとえば「笹露」など斬れ味を示す(笹の露は触れると即座に落ちる事から)場合や、今となっては来歴の分からない号も多い。
◇金象嵌銘
本阿弥家などが大磨上無銘の刀に入れた場合など。古折紙に相当する本阿弥が入れたものは価値が高く、銘と共に本阿(花押)と入っている場合や、折紙とセットの場合はさらに価値が高い。
見た目と心象が良いため、これを利用した偽銘も多い。現代では不思議な事にオークション出品物に多く見かけ、普通の店で販売される鑑定書付きの良品は滅多に見かけなかったりする。
◇朱銘
本阿弥家などが生ぶ無銘の刀に入れた場合など。朱漆で記したもののため年月が経たものは触れただけで剥がれてしまう。今となっては判読不明な場合が多い。これまた偽銘が非常に多い。
◇金粉銘
明治に本阿弥光遜が考案したもの。膠と金粉を練ったもので記されおり、一画ずつ分かれ記されている。鑑定上では(光遜のものであれば)尊重される。手で触れた程度では剥がれないものの、ハバキを外す際は削れるため注意。
■その他
◇底銘
銘は本物として、銘の一番底の深い部分が微かに細く残った状態。茎が何らかの理由で減ったもので、茎の部分でそれであれば刀身の状態も推して知るべし。
この底銘をはっきりさせようと、善意でなぞるように銘を入れた場合もあるが、これも追っかけ銘(完全な偽銘にはされないものの)として扱われる。
◇折り返し銘
大磨上の際に銘が消えるのを惜しみ、茎を削り折り返し反対側に逆さに残したもの。正真銘ではあるが、在銘品よりは価値が下がる。もちろん、これを模した偽物も多い。
◇額銘(短冊銘)
大磨上をする際に銘が消えるのを惜しみ、銘だけを短冊状に切り取り額のように嵌め込んだもの。銘自体は正真ながら、無銘よりはマシな扱い。これを模した偽物も多い。
◇無銘
なんらかの理由で銘がないもの。古刀であれば在銘の半分ぐらいの価値。
新刀は在銘が本来であるため価値は大幅に下がってしまう(清麿の刀であれば、1/3か1/4ぐらいでなんとか)。なお保存刀剣にしかならない。
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